熱い賭け

劇場公開日:

解説

ギャンブルに憑かれた大学教授が、周囲の信用を失い、自滅していく姿を描く。製作はアーウィン・ウインクラーとロバート・チャートフ、監督は「裸足のイサドラ」のカレル・ライス、脚本はジェームズ・トバック、撮影はヴィクター・J・ケンパー、音楽はジェリー・フィールディング、編集はロジャー・スポティスウッド、衣裳はアルバート・ウォルスキーがそれぞれ担当。出演はジェームズ・カーン、ローレン・ハットン、ポール・ソルビノ、モーリス・カーノフスキー、ジャクリーン・ブルックス、バート・ヤング、カーマイン・カリディなど。

1974年製作/アメリカ
原題:The Gambler
配給:パラマウント映画=CIC
劇場公開日:1976年8月21日

ストーリー

ニューヨークにもカジノがある。メンバー制の秘密クラブである。客は顔なじみの常連ばかり。その中でも、毎晩カジノに姿を見せて、しかも毎晩ルーレットで大金をすっている男がいる。昼間はニューヨークの大学で文学を講義している大学教授、アクセル・フリード(ジェームズ・カーン)という男だ。その夜もツキに見離され、大金を負け込んだアクセルを待っていたのは、4万4千ドルにも達した借金だった。カジノの胴元であるシンジケートの幹部から、アクセルは早急に借金の返済をせまられる。一味の中でアクセルに好意をもつヒップス(ポール・ソルビノ) も、早く金を工面した方が身のためだと忠告する。そして、考えついたのは商売で一財産を築いた資産家の祖父、A・R・ローウェンザール(モーリス・カーノフスキー)に泣きつくか、あるいは、女医として成功している母親、ナオミ(ジャクリーン・ブルックス)に金をねだるか……。孫を自慢する祖父、そして息子を信頼している母親にアクセルは、どう金の話をすればよいのか戸惑う。結局、アクセルは町の高利貸しに頼みに行くが断わられ、母親に頼むよりほかに仕方がなかった。借金の額に驚いた彼女も、息子のためにやっとの思いで金をかき集め、手渡すのであった。しかし、アクセルは母親から巻きあげた金を借金の返済に当てようとしない。この金を手にした今、彼は自分の運をすべて賭けることにしたのだ。ギャンブルに憑かれたあの興奮と熱気、そして増えつづけてゆく金を見ることの夢の中へ。やがて恋人のビリー(ローレン・ハットン)を伴いラスベガスへ飛んだアクセルは、さっそくカジノのテーブルの前に坐りこむ。今度こそ、ツキは彼のものだった。面白いように金が増えてゆく。彼は有頂天になり、フットボール試合にそのツキを持ち込もうとした。しかしそれは失敗だった。彼はせっかく儲けた金をすべてスッてしまう。ニューヨークに戻った彼を待っていたのは、シンジケートの容赦ない借金の催促だった。遂にアクセルはシンジケートに捕えられ、ボスの前に引き出される。ボスは借金を帳消しにする代償として、バスケット部の花形選手、スペンサーに八百長試合をさせるよう、アクセルに命じる。スペンサーはアクセルの頼みを聞き届け、大切な対校試合で八百長を働いた。シンジケートは約束通り、アクセルの借金を白紙にしてくれた。空虚な心のアクセルは黒人の売春婦を買うが、ポン引きと喧嘩沙汰となり、顔をナイフで傷つけられる。そして鏡の中の自分の血だらけの顔を見た時、アクセルは全ての人間の愛情と尊敬を失ったことを、思い知らされるのだった。

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スタッフ・キャスト

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受賞歴

第32回 ゴールデングローブ賞(1975年)

ノミネート

最優秀主演男優賞(ドラマ) ジェームズ・カーン
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映画レビュー

3.5ギャンブラー依存症の大学教授の弱さと愚かさを演じたジェームズ・カーンの魅力

2022年4月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ギャンブラー依存症で自滅する大学教授の話の設定が、今度のカレル・ライス監督作品の面白さである。しかもそのどうしようもなく賭けたい欲望を抑えきれない駄目な主人公アクセル・フリードをジェームズ・カーンが演じる意外性と、物思いに沈む冒頭シーンに流れる音楽がマーラーの交響曲第1番『巨人』の朝もやの静かな森をイメージする第一楽章の導入部だったのが興味を引く。この映画の魅力が理性的なライス監督の演出タッチとカーンの演技力と人間味にあり、その期待を持たせるだけのファーストシーンであった。このマーラーの音楽の使い方が巧い。それともう一つ印象に残るのが、アクセルの恋人ビリーを演じたローレン・ハットンの演技センスの良さだった。続いて母親ナオミのジャクリーヌ・ブルックスと祖父役のモリス・カルスキーの地味ながら堅実な演技も特筆すべきものである。

物語はアクセルが4万4千ドルの高額な借金を抱えるところから始まり、どうしようもなくなった彼は女医の母にお金を強請るが、最初はきつく断られる。これが初めてではなく、今までに何度も重ねてきたことが窺えるが、本人はそれほど苦しんでない。また一代で資産家となり優雅な余生を送る祖父の誕生日パーティーに現れたアクセルは祖父の自慢だが、それに甘えてお金をせびることはなく、やはりまた母親に強請る。海で泳いで岸に上がってきた母親に借金の金額を伝える、プライベートな日常の中の描写がいい。余りの金額の大きさに驚き、そこに息子の身の危険も感じ取ったのだろう、すぐに銀行から全額下ろして工面する。大学では学生を前にして、きちんと講義しているアクセルが描写されていて、この主人公の裏表の表現にライス監督の巧さとカーンの魅力があり、人間観察の面白さになっている。

アクセルの大学教授という社会的地位を憂慮してマフィアの圧力を抑えてくれるヒップスの存在も面白いが、その関係が壊れてからアクセルが苦境に立つ展開は、実に映画的教訓と人生の因果応報を思わせる。カジノで大儲けしたはいいが、大学のフットボール試合の八百長に手を染めて、次第に自己嫌悪に陥るのは理の当然だ。ギャンブル依存症から抜け出せない人間の弱さと、その甘えた精神の自己批判を兼ねた面白い作品だった。久しぶりのライス監督の佳作であり、ジェームズ・カーンの挑戦した役柄の好演に満足した。

  1978年 10月3日  大塚名画座

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Gustav
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