「いくつもの糸が絡み合い大河を流れていく」愛と哀しみのボレロ 車エビ太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
いくつもの糸が絡み合い大河を流れていく
私のなかでは史上最高の映画でした。戦争と民族と愛と慈愛の大河をたくさんの家族や個人を登場させて人生そのものの糸が触れ合い、すれ違い、時には絡み合いながら時代を象徴する群像として描かれていく。主な4つの一家の他にもユダヤ人を救う女教師と息子、線路で拾った赤ん坊を捨てた男と子供を探す母親の出会い、散り散りになったパリの劇団員が、ある者たちは合流、男性ダンサーは米国でダンサーとなり、劇団長とその息子は女をめぐる泥仕合へと、4つの糸以外にもたくさんの糸が周りに流れていることに気がつき、時代に翻弄されながら生をつないでいく人々と、混乱の時代を自ら繰り返しつくっている人間のおろかさ、あわれさ。
この映画はそうした人間の哀しみ喜びを、おろかな人間たちの性(さが)の上に群像として描ききった大作です。ロシア、ドイツ、フランス、アメリカという言語の通じない家族たちを象徴的に主役にして、聖書でバベルの塔を築いて神が言葉を通じさせなくなった人間たちの末裔を描いている愛と哀しみの糸の物語。長く語り継がれる傑作だと思います。
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