「世界一の映画館支配人の大のお気に入り映画」哀愁 KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)
世界一の映画館支配人の大のお気に入り映画
淀川長治に世界一と言わしめた一地方都市の
映画館「グリーンハウス」の元支配人、
佐藤久一の大のお気に入りの映画だった
と知って再鑑賞。
ストーリーはシンプルで
奇をてらったところは無いどころか、
何故か絶えない負のベクトルの連続は、
結論に結び付けるための強引とも言える
な展開ではある。
急な出征に際し、彼の「見送りはいい、
戻ったら結婚式を挙げよう」の一言が
あったらダンサーを首になる等、
全ての暗転劇は無かっただろうと
思いながらも、
彼女の次の仕事が見つからないことも、
彼に困窮を伝えないのも、
戦死のエラー記事による彼の母との行き違い
も、そもそもがこのドラマを成立させるため
の要素に過ぎず、それをリアリティ欠如との
指摘も野暮と言うべきかも知れない。
そして私は、彼と結ばれることへの
彼女の心の葛藤に共に引きずり込まれた。
ただ、
今の時代だったらこんな結末には
導かないだろうとの時代性は感じる作品だ。
今の時代だったら、例えば
「わたしは、ダニエル・ブレイク」
のように、ヒロインが娼婦に身を堕とした
としても、それは個人の責任性とは異なり、
社会の矛盾がもたらしたものとしての描写に
ウエイトが置かれる。
「わたしは…」が社会変革による非常時
における悲劇だとしたら、
「哀愁」は戦争という非常時における悲劇
と言えるかも知れないが、
この映画のヒロインの出した結論は
あくまでも彼女個人の思索の結果だ。
再鑑賞に当たっては、
肝心な点を忘れていて、
彼女の自死の切っ掛けは、
良くあるパターンである過去を知る人物との
再会と考えて観ていた。
しかし、彼女の最後の選択が、
あくまでも自身の心の葛藤の結果であり、
その見事な描写が、
類似の作品には無い深い感動
をもたらしているようにも思える。
マーヴィン・ルロイ作品としては、
その後の「心の旅路」「若草物語」
「クォ・ヴァディス」の鑑賞のみだが、
恋愛物としては「心の旅路」の方が
ハッピーエンドの分だけ
後味の良さはある。