「轟沈しましたよ」ヨコハマメリー フリントさんの映画レビュー(感想・評価)
轟沈しましたよ
ヨコハマに居た女性の話
なんだこの作品は!めちゃくちゃ面白いじゃないか。
ポスターやチラシを見るからにかなりの色物ドキュメンタリかと思ったけれど、とても素晴らしい作品でした。
まず題材がいい、横浜に出没する白塗りの老女。もう都市伝説とか妖怪とかの類を追ったホラードキュメントですよ。
オカルト好きにはたまらんのですが、次第にメリーさんの人物像が浮彫になるにつれて彼女の人生が紐解かれていく。
彼女の正体、出自はわからないけれど、ぼやぼやと人物像が見えてくる。
それは戦後の混沌とした横浜とメリーさんの歴史。
復興と米軍と裏社会、大変そうだけどスリリングでギラギラしていたんだろうなと思いを馳せた。
インタビューする対象も濃いメンツばかり、シャンソン歌手、舞踏家、女優、宝石商、芸者、風俗ライター、愚連隊、それぞれがすでに魅力的でずっと話を聞いていたくなる。
舞踏家さんの話で香水のエピソードが好きですね、表現力もさることながら情景が目に浮かびました。うっとりです。
ヤクザと警察と米兵が入り混じった酒場根岸屋もいい、ただの駐車場になってしまったけれど行ってみたかったですね。
メリーさんの足跡をたどるうちに横浜のアウトサイドを垣間見てしまうのは必然なのだけれど、なにせ都市伝説ハンターだと思って見てたら「ノマドランド」見てました的な感動。
後から後から興味が沸いて出て劇中メリーさんに首ったけでしたね。まあ映画見る前に実際横浜で遭遇したら怖くて近寄れなかっただろうけど。
監督の題材選び、編集のリズムもすばらしくラストのシーンまでの感情の積み重ね方も上手い。
最期の展開では思わず目を見開いてしまいました、そして感動した。いい意味で総毛だちました。
中村監督の作品では「禅と骨」を見たことがあったけれど、正直こちらの作品は心に響かなかった。
題材のヘンリー・ミトワにあまり魅力を感じなかったし、ドラマパートが有ったり、赤い靴の女の子な話が入ったりで散らかった映画だったと記憶している。
でも「ヨコハマメリー」を撮った後だったら次の作品は難しいだろうと理解。
こんなにも素晴らしい傑作を超える作品はなかなか撮れないしお目にかかれない。
自分の街にもメリーさんのような人がいる、苦手だし近づきたくないけれど、「人に歴史あり」「ドラマのない人間はいない」の言葉を思い出して妄想するのもいいかも知れない。
相手の事を知りもしないで差別するのは愚かなことだと自戒して生活していこうと思う。
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劇中セリフより
「メリーさんに声を掛けられるって事は光栄な事なんです」
人それぞれに見えているモノも見えるモノもは違うんですね。