「仰げば尊しは歌われないみたい」あおげば尊し kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)
仰げば尊しは歌われないみたい
最近は卒業式に「仰げば尊し」を歌わない学校が多いそうだ。ネットで調べてみると、教師側から恩着せがましく“感謝せよ”と強制されているみたいなので反対意見が多いというのが理由らしい。
この映画『あおげば尊し』の中でも女性教師が「うちの高校は民主的だったから歌わなかったわよ」といった台詞もあったのですが、そうした学校で「君が代」を歌っていたなら笑ってしまうところです。そういう自分は高校も大学も自主的に卒業式には出席しなかったのだから、何も文句が言えないところなのですが、卒業をテーマにした流行歌でも歌えばすっきりしていいのではないでしょうか。
テリー伊藤が教師役だということで、多少戸惑いもあったのですが、感情を抑え気味にした演出のおかげで難なく観ることができました。ほかの出演者も、ドキュメンタリータッチのハンディカメラで撮られていたおかげで自然な演技。特に生徒たちが生き生きとしていて、教室のシーンも臨場感たっぷりでした。
「死体を見てはいけない」と、ネットで死体写真を見る小学校5年の田上少年を叱る先生でしたが、なぜ見てはいけないかと理由を説明することに悩んでしまう先生たち。「死とは何か?」ということの前に「命の尊さ」を教えればよい・・・などと社会問題にもなっている現代的テーマに真摯に取り組んだ内容の映画なのです。答えはなかなか見出せませんが、末期ガンで自宅療養している父の了解も取り、峰岸先生(テリー伊藤)は生徒たちに父の姿を見せることにしました。
「死の意味」なんて教えるのは難しいのでしょうけど、他人の「痛み」をもわからない子供が増えているんだったら、パク・チャヌクの映画を見せればいかがでしょうか。「痛さ」の伝わる戦争映画だっていいですし、同じ重松清原作の『疾走』だっていいじゃないですか。とにかく、教育関係者はもっと映画を観なければいけません。そして、ちょっと気付いたのですが、先生の息子は箸をちゃんと持っていませんでした・・・
社会問題、教育問題を考えさせられる良質の映画だとは感じたのですが、ドラマとしては今一歩。ラストシーンはちょっと反則技です。