劇場公開日 2005年1月29日

「【村上春樹氏の作品の世界観を見事に可視化した一品。坂本龍一の美しいピアノ曲を背景に、一人の男が抱えていた孤独感と、美しき妻を迎えた喜びと、喪った悲しみを抑制したトーンで描いた作品である。】」トニー滝谷 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0【村上春樹氏の作品の世界観を見事に可視化した一品。坂本龍一の美しいピアノ曲を背景に、一人の男が抱えていた孤独感と、美しき妻を迎えた喜びと、喪った悲しみを抑制したトーンで描いた作品である。】

2022年12月23日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

幸せ

ー 村上春樹氏の作品の映像化作品は、多くない。
  勝手な思いだが、作品自体の世界観が屹立していて、映像化しにくい事と、長編が多い事だと思っている。
  私の中で氏の映像化作品としては、「ハナレイ・ベイ」「バーニング 劇場版」「ドライブ・マイ・カー」が印象的であり、特に秀逸なのは、濱口竜介監督が、短編三作を編み込んだ「ドライブ・マイ・カー」であると思っている。
  韓国で製作された「バーニング 劇場版」も良いし、「ハナレイ・ベイ」も良い・・。(全部じゃん!と言わないで・・)。
  で、今作であるが、初鑑賞であるが、とても良かった作品である。-

■孤独でも平気だと思って生きてきたトニー滝谷(イッセー尾形)はある時、1人の美しい女性(宮沢りえ)に恋心を覚える。
 彼女が妻となり、彼の人生の孤独な時間は終了したが、束の間の幸福は妻の事故死で失われてしまう。
 残ったのは、彼女が虜になっていた、衣装部屋いっぱいのサイズ7の服だけだった…。

◆感想

・率直に書くが、坂本龍一の美しいピアノ曲を背景に、孤独だった一人の男が抱えていた孤独感と、美しき妻を迎えた喜びと、喪った悲しみが見事に可視化されている作品である。

・西島秀俊の抑揚のない、ほぼ原作に忠実なナレーションも効果的である。
ー 当然、「ドライブ・マイ・カー」を想起させる。-

・登場人物は、イッセー尾形が演じるトニー滝谷と滝谷省三郎、そして美しき妻と妻に似た女性のみである。シンプルであるが、それが良い。
ー 村上春樹氏の作品も、そうではないか。-

<私は、ハルキストではないが、学生時代から氏の作品を愛読している。(全てではない。)
 が、つい最近も書店に行った際に「猫を捨てる 父親について語るとき」を見つけ、速攻で購入した。
 (コロナ禍以降、アマゾンでCDや本を購入する事は止めた。本屋に行って、多くの本の中から時間を掛けて本を探す喜びを思い出したからである。)

 今作は、村上春樹氏の作品の世界観を、ミニマリズム的に表現した作品であると思う。
 モノクロームに近い色彩、過剰な演出を抑えた作風。
 シンプル・イズ・ベストという、手垢の付いた表現があるが、今作はその垢を落とした”シンプル・イズ・ベスト“な作品である、と私は思います。>

NOBU