「【”50代男女の長年に亙る、秘めたる恋物語。”静的で、端正な映像で人間性の善性を表しつつ、二人の時を超えた関係性の変遷を描いた作品。2020年代に入り、このような作品の上映は少なくなりました。】」いつか読書する日 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”50代男女の長年に亙る、秘めたる恋物語。”静的で、端正な映像で人間性の善性を表しつつ、二人の時を超えた関係性の変遷を描いた作品。2020年代に入り、このような作品の上映は少なくなりました。】
■50歳、独身の大場美奈子(田中裕子)の仕事は、早朝から急階段を駆け上がる牛乳配達とスーパーのレジ。
胸の奥に忘れられない人を押し込めて高校生以来、日々を暮らしている。
同じ町に住む高梨槐多(岸部一徳)は、毎朝牛乳配達の音にじっと耳を傾けている。
槐多の重い病気の妻・容子(仁科亜季子)は、ふたりの秘めた思いに気付き、美奈子に対し”会って欲しい”と手紙をしたためる。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・大変失礼ながら、岸部一徳さんのイメージは涙袋が膨らんだ政治家の悪役である。
それが今作では高校時代から想いを寄せていた女性と、末期の妻を看病する善性溢れる男を好演している。ちょっと、ビックリである。
■大場美奈子と高梨槐多は、高校時代から想いを寄せていたが、美奈子の母(鈴木砂羽)と槐多の父(杉本哲太)の不倫と、その事故死により関係性は離れていた。
高梨槐多は結婚し、市のネグレストに対応する課で働き、美奈子はずっと牛乳配達とスーパーのレジで働く日々。
・槐多の重い病気の妻・容子は一度だけ美奈子に会った際に”私はもう長くない。あの人と一緒になって”と告げるが、美奈子はそれ以降会いに来ない。
そして、容子は亡くなる。
・容子が亡くなった後、暫くして初めて槐多と美奈子は雨降る中、結ばれる。
だが、槐多が目覚めた時には美奈子は牛乳配達に出掛けていた。
ー ここで、槐多が見る美奈子の書棚を映すシーンが秀逸である。
美奈子は槐多への思いを多くの本を読む事で、紛らわせていたのである。
更に、その本棚は二人が想いを寄せていた本屋の本棚そのモノだったのである。-
<大雨の中ネグレクトに遭っていた男子が川の流れに入って行く。
それを見た槐多は、泳げないのに彼を助けに川に入る。
そして、鳴り響くサイレン。
槐多は”笑顔”で溺死していた・・。
その姿を見た美奈子は、涙を流すことなく翌朝からも、誰もいない高梨家に長い階段を駆け上って一本の牛乳を届けるのである。
今作は、長年お互いを想いながら、漸く一晩の契りを結んだ50代男女の品性高き恋物語なのである。>