「新海誠の一貫性」雲のむこう、約束の場所 REDさんの映画レビュー(感想・評価)
新海誠の一貫性
この作品の伝えたいことは、「夢」である。この「夢」を叶えるためには、多くの障害があり、代償も大きい。けれどもそれを背負って生きて行かなければならないという物語である。ここでの代償とは、世界が滅びてしまうことである。結果的には、世界が滅びることはなかったが、「夢」つまり「サユリ」ともう一度会うということは世界が滅びる可能性があり、そのリスクを覚悟で助けに行く。ここが代償や罪に当てはまる。
他者のレビューで、「戦争がなぜ出てくるのかわからない」。といったコメントがあったが、これには理由がある。それは戦争が、「塔」つまり「夢」を壊そうとする描写で描かれている点である。現実世界の話で言うと「夢」を叶えようとすると、お金や家族の面で障害が出てしまうことがある。それを戦争に置き換えているだけであり、そこにディテールは不必要だ。なので戦争について詳しい説明がされていないのである。
こう見ると、「天気の子」や、「君の名は。」でも罪を背負いながら生きて行くという新海誠氏の一貫されたテーマが垣間見える。では本作品のアイデンティティというのはどこにあるのか。それは物語の冒頭にある、成長したヒロキが一人で歩いているシーンにある。左下を少しだけ見て、俯き加減で歩いているヒロキに、本編ラストの笑顔のかけらもない。これはヒロキとサユリが、今は一緒にいないことが描かれている。本編で「とても大切な、消えちゃった」とサユリが呟くシーンがあるが、これはお互いの夢を重ねることが出来なくなったことである。ヒロキとサユリの「夢」は「塔」に行くことであり、その夢が叶ってしまうと、お互いの「夢」が消えてしまうということになる。お互い「夢」を共有することによって繋がりあっていた二人が、繋がりが絶たれてしまう。つまりはそれぞれの道を歩んでいくということである。本作品は、こういった夢を叶えることの希望と絶望を表現した作品であると言える。