「別れる意味がない」雲のむこう、約束の場所 Takehiroさんの映画レビュー(感想・評価)
別れる意味がない
新海誠監督の劇場映画2作目、dTVで拝見するのは、4作目と3作目に次いで発表順と逆に観ている。まだ『君の名は。』を観ていない。映画を観終える前にネットであらすじを予習と言うか、カンニングというか、してしまってからなので、タイトルもそれはそうだと思うし、既に観た2作と違い、SFだった。映像は4作目でアニメの精密さに驚愕したが、3作、2作と逆行しているのもあるのか、凄みには慣れてしまった。日本が戦争後に2国に分断されていて、北海道をエゾと言っているが、そこだけが別の国になっている。NHKオンデマンドで、『NHK特集 日本の戦後』を観たが、その1回めで、日本が本当に第二次世界大戦後に2か国どころか、4か国で4つに分断されたかも知れないという計画を知り、驚いたが。1990年代が舞台のようだが、高校生が飛行機の製作をアルバイト先で出来るというのも凄い事だと思う。一人の女性への憧れというモチーフはどの作品も共通しているようだ。なぜか河川に飛び込んでしまうシーンは、この映画では故意では無かったが、最近観た作品で、『ももへの手紙』も『四月は君も噓』もあったから、偶然良く目にしたが、秋の長雨で台風も来て、また来ると言う。洪水のほうが心配だ。人の見る夢が並行宇宙への出入り口なのかという事なのか。SFは日常的に経験しない事が入るのでわかりにくい面がある。夢を出入り口にした異次元空間での交錯は、まだ観ていないのでわからないが、『君の名は。』と似たような面があるのかどうか。しかしこの映画の時点ではあんなに大きな話題にはならなかった。内容の見せ方がこの映画のほうがやや難しかったのだろうか。普通の工場にみせかけて実は、南北統一を計画するテロ集団が正義としてみられるところがある。これは何を意味するか。主役たちは連合側の住人だ。
共産側は謎に包まれている。その象徴がとてつもなく長い塔であるようだ。主人公は一人の女性を救うのか、世界全体を救うのかという究極の選択に追い込まれるようだ。そして女性を救えば、女性の記憶は主人公を忘れてしまう。その過程で一瞬だけ二人の思いが通ずる時間があったが、現世界の存続と引き換えに女性の思いは消えて行ったらしい。それでも主人公は世界を救う。女性は主人公との思い出を失くしても。理解していないかも知れないが、そうだと思った。背後に川嶋あいの揺らいで危うい清らかな声で主題歌が流れる。しかしわかりにくいのはオープニングに喪失感の場面が出て来て、主人公と女性は一緒にいない事が予想されるのだが、最後の場面では女性は眠りから目覚めていたのである。この整合性がわからなかった。ただ、『秒速5センチメートル』
は女性の心変わりから評価を私は大きく下げたが、この作品は淡い恋の交流であり、それで初めから思い出を失くした時点で主人公と女性は別々の道を歩んだのかも知れないが、喪失感を表すには動機が弱くなると思った。むしろ『ひよっこ』みたいに記憶を失くしても歩めるほうがロマンティックだっただろう。だから大きく下げもしないが評価を上げられない。