「【”そして、ジェリコの壁は崩れた。”ニューヨーク行きの大陸横断バスで出会った世間知らずで我儘な大富豪の娘と漢気のある新聞記者がひょんな事で共に旅し、徐々に惹かれていく様を描いたロードムービー。】」或る夜の出来事(1934) NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”そして、ジェリコの壁は崩れた。”ニューヨーク行きの大陸横断バスで出会った世間知らずで我儘な大富豪の娘と漢気のある新聞記者がひょんな事で共に旅し、徐々に惹かれていく様を描いたロードムービー。】
■大富豪の娘・エリー(クローデット・コルベール)は父親に飛行機乗りの男との結婚を反対された事に怒り、家出する。
エリーの父親は、娘を探し出すために多額の懸賞金を出すことを新聞に記載させ、更に多数の探偵も雇う。
ニューヨーク行きのバスに乗り込んだ彼女は、偶然席が隣り合わせとなった新聞記者のピーター(クラーク・ゲイブル)と旅を共にすることになる。
さまざまなトラブルに巻き込まれながら、やがて二人は互いに心惹かれ始める。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・今作はとても、粋なロードムービー作品であると思う。
ー フランク・キャプラ監督の手腕が炸裂している。-
・新聞記者のピーターは乗り合わせたエリーが大富豪の娘と知り、最初は懸賞金目当てで近付くが、徐々に世間知らずの彼女の無垢な顔を見て惹かれていくとともに、彼女の我儘な性格に対して、”直ぐに金で解決しようとする。何で、素直になれないのだ!”と叱責する。エリーは最初はそんな彼の言葉に反発するも、実は根は優しく正義感の強いピーターに惹かれていくのである。それは、ピーターも然りである。
・エリーの父親が雇った探偵たちが、エリーとピーターが咄嗟に夫婦を演じ、追い払うシーンや、バスに同乗していた矢鱈に喋るシェプリーがエリーの本当の姿を新聞で知り、ピーターに”分け前5000ドルでどうだ。”と持ち掛けた際に、ピーターがマフィアの振りをしてシェプリーを追い払うシーンも可笑しい。
■彼の有名な二人がヒッチハイクで車を停めようとするシーン。
・ピーターは、ヒッチハイクの仕方を3通り、エリーに披露し、車を停めようとするが一台も停まらない。そして、エリーが”じゃ、私が。”と言ってピーターのように親指を立てずに、スカートの裾をまくって長い脚を見せ、一発で車を停めるシーンは可笑しい。
・宿が無くて、二人で野宿するシーンも良い。藁を集めるピーターに対し我儘を言うエリー。そんな彼女にピーターは再び、キツク叱責するのである。ピーターが寝た後に涙を浮かべるエリーの切ない表情。-
・ピーターは旅の途中でエリーとお金のことを考え、同室に泊まるが常にエリーとの間に”ジェリコの壁”と言って毛布を掛け、敷居を作る。
ー 彼は、何だかんだ言って、ジェントルマンなのである。
そして、或る晩にエリーは涙を流しながら、ピーターに恋心を告げるのである。-
■今作は最期まで捻りを入れたストーリー展開が光る。エリーは宿屋に自分を置いてどこかに行ってしまったピーターに立腹し、父親の元へ戻る。
更にエリーはピーターが自分の面倒を見ていたのは懸賞金目当てだったと誤解する。
だが、ピーターがエリーの父親の元を訪れた時に請求したのはエリーをニューヨークに連れて行くためにかかった実費のみであったのである。
そんな、ピーターが”エリーの事は好きだ。”と言って自分の部屋を出ていく後ろ姿を見る父親の表情。
そして、エリーが飛行機乗りの気障な男との結婚式でバージンロードをエリーと共に歩く際に父親が彼女に言った言葉。
”お前は馬鹿だ。お前はあの男の事が好きなんだろ。アイツもお前の事が好きだと言っていたぞ。”
その言葉を聞いて、エリーは牧師の前で宣誓する瞬間に、待っていたピーターの車に飛び乗るのである。
<ラストの描き方も粋である。且つてピーターがエリーを残して行った宿屋の外観が映され、宿屋の夫婦が”あの二人は結婚しているのかね。”と言う中、部屋の明かりが消え”ジェリコの壁”は取り払われるのである。
今作は、コメディ要素を随所に挟みながら、ひょんなことからニューヨークへの旅を一緒にする事になった男女が徐々に惹かれていく様を描いたロードムービーの逸品なのである。>