「愛欲からの愛情」ヴァイブレータ ychirenさんの映画レビュー(感想・評価)
愛欲からの愛情
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90分の物語には1人の女と1人の男がいれば充分なのだな。と、この映画を観てつくづくそう実感した。
凍てつく冬の夜、行きずりの旅、トラック車内で繰り広げられる愛欲。東京から新潟間の往復、およそ4日間の道のり。女の痛々しい言動は男の気を引くためなのか。そんな彼女と貪り合いながらも「面倒事はゴメンだ」と言わんばかりに一線を引こうとする男は反社との繋がりを匂わせ気に食わなければ女でもぶん殴ると嘯く。だが3日目の夜、精神のバランスを崩し泣きじゃくる女を男は後ろから優しく抱きしめる。そして女は男に身を委ねる。旅の終盤、寂れたドライブインで女が男に「私の事好き?」と尋ねる場面が好きだ。男は無骨に「好きだよ」とこたえる。そこには駆け引きなど一切ない。
序盤、コンビニで酒を購める女の身体を軽くノックして男は彼女の心のヴァイブレータを鳴らす。その無言のヴァイブレーションに誘われ女は男が待つ大型トラックに乗りこむ。もちろん目眩く欲望のために。だがいつしかその愛欲はほんの少し愛情へと姿を変えていったように思える。そうした経験は何も劇中のようなアルコール依存のルポライターと金髪運転手だけのものではない。求め合う男女、人間がいる限りいつでも、どこでも、誰にでも起こりうるのではないだろうか。だから通勤電車に揺られて喜怒哀楽が薄れがちな自分のような人間にも女が不意に口にした「私の事好き?」と言う台詞が心に響いたのだろう。
まさに心の深い所でヴァイブレータが鳴り響いた、そんな90分だった。
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