劇場公開日 2003年1月18日

「【”貧しき家族の為に戦った真の侍。”今作は新撰組の中では異色の侍、吉村貫一郎が吝嗇家と陰口を叩かれながらも義を貫き、家族の為に戦った姿を描き出した琴線に響く近代時代劇である。】」壬生義士伝 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 【”貧しき家族の為に戦った真の侍。”今作は新撰組の中では異色の侍、吉村貫一郎が吝嗇家と陰口を叩かれながらも義を貫き、家族の為に戦った姿を描き出した琴線に響く近代時代劇である。】

2025年11月3日
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ー 一般的に、新撰組で名を馳せた剣士と言えば、沖田総司(堺雅人)、土方歳三(野村祐人)、近藤勇(塩見三省)と言ったところであろう。後年「るろうに剣心」でメインキャストになった斎藤一(佐藤浩市)もその一人に入るであろう。
  今作の主人公、吉村貫一郎(中井貴一)の名が出たのは、子母澤寛の「新選組物語」であるが、矢張り名が広まったのは、今作の原作である浅田次郎著「壬生義士伝」であろう。-

■幕末の政情不安定な京都を守る新撰組に、盛岡の南部藩からの脱藩浪士・吉村貫一郎がその北辰一刀流の腕を認められ入隊してきた。
 剣の腕は最強を争うほどだが、只管に金を大事にする彼の存在は、隊では浮いた存在であった。だが、彼には故郷に残した家族のために生きて稼がねばならない理由があったのである。

◆感想<Caution!内容に触れています。>

・矢張り、今作は今や邦画を代表する名優となった吉村貫一郎を演じた中井貴一氏の演技が図抜けている。原作では分からない序盤の金に執着する剽軽な姿や、南部藩に居た際に貧しき家の為に恋い焦がれて嫁になって貰ったしづ(夏川結衣)が、子を身籠った際に子を堕胎するために危険な寒き川に入る所を必死に止める姿との、ギャップを演じ分ける凄さである。

・彼はその為に、盛岡の南部藩から脱藩し、剣の腕一つで稼げる新撰組に入ったのである。そこで彼は、刹那的に生きる佐藤浩市演じる斎藤一に嫌われ、殺され掛けるのだが腕は一流の為、それを躱し剽軽さを装い、無かった事にするのである。

■今作は、物語構成も秀逸で、老いた斎藤一(ご存じの通り、この人は新撰組で生き残った後に、警視庁で警部迄昇進している。)が、ある町医者を孫を連れて訪れた際に、吉村貫一郎の写真を見つける所から、遡って彼の生き様を斎藤一と、彼の親友大野次郎右衛門(三宅裕司)の子であった町医者(村田雄浩)の語りで進むのである。

・薩長軍の攻勢により、劣勢になる幕府軍と新撰組。そして鳥羽伏見の戦いが勃発するが、吉村貫一郎は斎藤一の制止を振り切り、戦闘に参加するのである。
 斎藤は、吉村がそれで死んだと思っていたのだが、町医者が語る彼のその後の生き様に驚くのである。
 彼は血だらけになりながら、南部藩大阪屋敷に辿り着く。だが、脱藩した彼を大野次郎右衛門は匿う事は出来ずに、自分の名刀を渡し武士の情けだ”腹を切れ”と告げるのである。
 ここからの吉村を演じる中井貴一氏の演技は、物凄い。供せられた南部米の握り飯を観て”嬉しい”と呟き、懐に入っていた金子を数え、子らに渡す計算をし、その後一人で、自分の刃毀れした刀で、腹を切り果てるのである。
 名刀は子に渡してくれと、自らの血で壁に書き残し・・。

<今作は新撰組の中では異色の侍、吉村貫一郎が吝嗇家と陰口を叩かれながらも義を貫き、家族の為に戦った姿を描き出した琴線に響く近代時代劇なのである。>

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