「熊井啓監督の社会派映画」日本の黒い夏 冤罪 たいちぃさんの映画レビュー(感想・評価)
熊井啓監督の社会派映画
松本サリン事件の冤罪はどのようにして生まれたのか、を描いた熊井啓監督の社会派映画。
冒頭、松本の綺麗な自然の風景・松本城が描かれて、本題に入っていく。
この冤罪ドラマを語るには、地元の高校生が当時のテレビ局に聞き込みに行って、当時のテレビ局社員たち(主に、リーダーの中井貴一)が語っていくかたちを取っている。
⇒ まったく映画とは関係ないが、この映画も他の映画も中井貴一は「じっくりと話す雰囲気」なのが、NHKテレビで夕方放映されている番組「サラメシ」では如何にも「軽薄そうな雰囲気」なギャップが…(笑)
平成6年(1994年)6月27日、長野県松本で「有毒ガス事件」が発生。
死者7人、重軽傷者586人。(この死亡者数には冤罪にされた家族の奥様はまだ含まれていない)
第一通報者(劇中では神部さん(寺尾聰))が重要参考人として調べられると、テレビ・新聞が一斉に犯人扱い。警察も面子をかけて犯人扱いの取り調べ。
テレビ局の取材で「最初は青酸カリ」を使ったと思われたが「被害者の状況から青酸カリではない」となったり、「サリンはバケツでも簡単に作れる」などという取材場面があったりして、当時かなり混乱していた模様。
ただ、化学研究者への取材では「サリンなんて簡単に作れない。巨大な設備、複数の頭脳などが必要」とだんだん真実に迫って行く。
劇中では「カルト集団によるサリン事件だった。神部さんは冤罪…」と、既に知れ渡っている事実をなぞった程度の映画に見えて、数々の傑作を生み出してきた熊井啓監督らしい深堀りが見られなかったのは残念。
地下鉄サリン事件の報道映像も使われたりしているが、もう少しドキュメンタリー的な描き方をすべきだった気がする。
また、映画では「カルト集団」と曖昧な呼称だけだが、あの教団について深堀りすべきではなかったろうか?
冤罪にされていた神部さん側だけを描くのは片手落ちという感じ。
追究不足の感が否めない映画であった。