陸軍中野学校のレビュー・感想・評価
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スパイとして生きる
時代も時代、流石に陳腐化は否めず、価値観も大きく現代と違う為、登場人物の行動原理への違和感や理不尽さ、関係構築への唐突さなど、首を傾げたくなる部分はある。
しかし、物語の構成が見事で様々な要素が上手く重なって重厚なストーリーになっていた。特に主人公と婚約者が互いにスパイとして対比がなされ、敵もまたスパイだというのも上手いと思った。そしてやはり主人公が最後、元はといえば健気に自分を追ってきた婚約者を自らの手で仕留めるのも残酷で切ない。物語冒頭の幸せな雰囲気だったのがさらに効いている。
古くても80、90年以降、基本は現代の映画を見慣れている自分からすると、白黒の昔の映画は鑑賞するのにある程度の体力はいったが、十分満足できた。
…せっかくベルト式のカメラを観客へ提示したのなら、コード表の写真を撮る時それを使えば良いのに。
(ベルトにそのままちっちゃいカメラが付いているのは面白かった。)
スパイには失敗は許されない・・・「あ、すっぱい」などと言ってもシャレにならない
1938年、士官学校を出た三好次郎陸軍少尉(市川)は草薙中佐(加藤大介)の訪問を受け、次々と質問を受けるが、その後陸軍省に出頭を命ぜられる。そこでは18人の若い少尉が集められ、制服を脱いで軍隊用語の使用禁止を命ぜられ、スパイ養成学校に入れられることになった。将来も名誉もないスパイ。名前も偽名を使わされ、家族や恋人、外とのつながりを一切禁じられたのだ。三好の婚約者雪子(小川)とも音信不通となり、彼女は次郎の消息を探し始めるのだ・・・
婚約者を探すため、陸軍参謀本部・暗号班のタイピストとして雇ってもらった雪子。しかし、元の会社の英国人社長ベントリーの情報で次郎が銃殺されたと聞かされる。悲しむ間もなく、その社長から陸軍のスパイを依頼されたのだ!
卒業試験は英国の暗号文解読のためのコードブックを領事館から盗み出すこと。盗み出すことに成功するが、盗まれたことに気づいた英国側がコードをすぐさま変えてしまう。中野学校の名誉を守るため、参謀本部が怪しいと睨んだ次郎。調べてみると雪子が情報を漏らしていたことに気づく。
ノイローゼになって首吊り自殺で1名脱落。バーの女にうつつをぬかし、仲間の軍刀を売ろうとした罪で切腹を命ぜられた学生(実際は刀に飛び込んでいった?)。そして、憲兵に捕まるであろう雪子を自らの手で死に導いた次郎。普通の人間の感情が徐々になくなっていく様子が恐ろしいし、草薙の思想にもろ手を挙げて共感する学生たち。陸軍の暴走を止めようといった考えは敵国側にも共通するのに、どうしてこうもいがみ合わねばならぬのか。戦争が若者たちの心も変えてしまう。
スパイとは真心の職と見つけたり?
「陸軍中野学校」シリーズ第1作。
Amazonプライム・ビデオで鑑賞。
実在した帝国陸軍のスパイ養成機関“陸軍中野学校”を舞台に、スパイになった青年・三好(椎名)次郎と、彼への愛情故にスパイとなってしまった恋人・布引雪子の悲劇を通して、諜報戦、もとい戦争の残酷さを描いた作品。
市川雷蔵の放つニヒルな魅力…! 中野学校の教育―別人に成り切る方法、様々な諜報技術、さらには女を“悦ばせる”術まで教え込まれ、骨の髄からスパイとなっていく様を、虚無感とそれに伴う色気が漂う佇まいで淡々と演じていました。
淡々としていたからこそ、普通の人間から“スパイ”という人種に変貌していく恐ろしさが、浮き彫りになっていくように感じました。任務のためとは云え、恋人である雪子を殺害すると云う“通過儀礼”を終えた彼の心境や如何ばかりか?
草薙中佐が語ったスパイ論―スパイとは真心が肝心である。本当にそうだろうか、と思いました。嘘偽りの無い諜報活動なんてありえない。相手をどれだけ出し抜いて、こちらに有利な状況へと持っていくことが出来るか…。それが全てでは?
言葉巧みに青年たちをスパイの道に引き摺り込んだ所業は、まさに“戦争”そのもので、残酷極まり無い…。そこには真心なんて無い…。青年たちを掌握し、一流のスパイに育て上げた草薙中佐―。本作でいちばん恐ろしいのは、この人だよ…。
やがて三好は、一連の事件を通して気づいていく…。スパイの世界に、真心なんてものは存在しない。そんなのは詭弁であり、あるのは勝つか負けるか、騙すか騙されるか、殺るか殺られるか、と云う単純明快かつ残酷なものである、と…。
私はスパイになった。私の心は死んだ
戦時中実在し、『ジョーカー・ゲーム』の元ネタでもあるスパイ養成機関“陸軍中野学校”を題材にした1966年の作品。
50年も前の国産スパイ映画?
嘲笑するなかれ。
スパイ映画に馴染み無い日本に於いて、国産スパイ映画として最上級。
ハラハラ緊張感もあるし、見応えもあるし、何よりその悲劇性に胸掻きむしられるほど目頭熱くさせられる。
陸軍幹部候補生の次郎他、草薙中佐によって集められた若きエリートたち。
スパイとしての技能を徹底的に叩き込まれる…。
モールス信号や暗号解読、銃撃といったスパイらしい学習塾のみならず、
服役囚を講師に招いての金庫の開け方、拷問、薬品を用いて人を自然に殺める術。
変装、2か国の外国語、仮の二つの職業訓練。
果てはダンス、女性の落とし方、性感帯まで。
スパイになるという事は、全てを捨てねばならない。
本名も、出世も約束された人生も、愛する人や家族も。
それに耐えられず、訓練中に自殺する者も。
何か意義はあるのか?
スパイと言うと、どうもイメージが悪い。
裏切り、人殺し、盗み。全ては自国の為。
が、彼らを招集した草薙中佐の志は違う。
貧困や紛争などで苦しむ国の原因を探り、その国を救え。
模範として語られる明石大佐(日本の伝説のスパイ、詳しくはWikipediaを)のような真のスパイとなれ。
中盤の実戦は巧みさとエンタメ性もあり。
スパイ肯定映画…と思いきや、そうではない。
スパイの非情さ、悲劇などが非常に色濃く描かれており、10何年も前初見した時もその印象が延々と残っている。
訓練中、不祥事を起こした者が。
大事になれば、存続の危機。
そこで彼らが下した決断は…。
スパイへの固い志、学校を愛し始めた故…と言えば聞こえはいいが、人間性をも殺さねばならない行動にヒヤリとさえする。
次郎には、婚約者の雪子が。
が、軍に行ったきり、次郎は行方不明扱い。
雪子は次郎を探す為、今の仕事を辞め、軍の情報部のタイピストに。
ある時、次郎の戦死を知らされる…。
湿っぽいメロドラマのようだが、彼女の存在がスパイの非情さや悲劇を殊更浮き彫りにしている。
失意の雪子に、ある人物が近付く。
恋人を奪ったのは陸軍。この日本という国を滅ぼしかねない陸軍。
そして彼女は…。
他に方法は無かったのか…?
憂鬱になるくらい、哀しく、やるせない。
市川雷蔵にとっては珍しい現代劇。他にもちょっとお堅い演技の者もいるが、抑圧の無い淡々とした回想の語りは作品に合っている。
加東大介の熱演には確かに負ける。
若き小川真由美が美しい。
ラスト、次郎はある人物を自殺に見せかけ、遺書を書く。その一文に、
“私もスパイだった。私の心は死んだ”
…と、ある。
その言葉を借りるなら、
“私はスパイになった。私の心は死んだ”
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