陸軍中野学校のレビュー・感想・評価
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愛する人をとるか、任務をとるか
日本のスパイものの傑作。実在した諜報活動員を育成する機関を題材に、家族や恋人をとるのか、任務をとるのかで引き裂かれる人物たちを見事にドラマチックに描いている。死んだことにされる諜報員候補生たち。お国のために約束された将来も犠牲にして諜報を学ぶが、影働きのためにその功績が日の目を見ることは少ない。
主人公には婚約者がいる。婚約者の女性は突然消えた主人公を探すために陸軍でタイピストとなるが、重要な機密を知ってしまい、運命のいたずらで外部に機密を漏らしてしまう。それを知った主人公は、任務のために非情の決断を迫られる。正体を隠さねばならないスパイと、婚約者の愛情との葛藤に揺れつつ、国のために人生をささげる非情さが描かれる。
諜報活動は影働きとはいえ、非常に重要なもので、一つの情報が数万の兵の命を左右することもある。スパイとは、そういう大きな全体の犠牲となる「個」の代表的な存在だ。そこがしっかり描かれた本作は、欧米のスパイものの傑作と比べても劣らない素晴らしい作品だ。
後半がすごい
正直 前半は途中から退屈になってきて見てるのが苦痛になった
実を言うと1回休んだ
とても 評判が良いので 次の日に気を入れ直して見てみたのだ
・・そしたら 後半は グイグイ来た。 まさに 評判通りのすごい迫力の名作だった
これは 市川雷蔵の作品の中でも ベスト3に入るんじゃないだろうか
そして加東大介の はまり役。 厳しくはしているけど本当は人がいい・・っていうのがとてもうまく出ていた。それがこのシビアすぎる映画に人情味あたえ、作品をモノにしていると思った。それから小川真由美。なんて一途な感じのする女優さんだろう 。この女優さんのもっている 緊張感のようなものが この映画を成功に導いた。美しいし スタイルもいいので 非常にソソる。彼女が 危ない目に合いそうで 緊張感を高めた。さらに言えばこの作品は監督の最高傑作でもあるだろう。他の作品は いまいち傑作になりきれない準傑作的な中途半端なものだがこれだけは突き抜けた本物だ
そして最も特筆すべきなのはこの映画の長さではないだろうか? もっと長くしたらもっと 傑作 になるように思えるが、多分そうではないのであろう。そしてこの映画が制作された 1966年の観客たちは描かれている時代のことをよく知っていたのであろう。だからこれでいいのだと計算されたのだ。それが面白いことに、現代の我々が見ても、この長さで十分に この時代がわかるのである。
それにしても珍しいネタの映画だと思う。 何だかあんまり定かでない 原作なのだが・・ これを 映画化しようって思いついたのは偉いね。
クール。
数年前、映像業界に身を置く後輩から勧められて鑑賞した作品。今回再鑑賞してみたが、静かな中にも確固たる芯があり、見応え十分。色褪せない。
順風満帆な人生の歩みが突如暗転させられるが、そこにあらがうでもなく、淡々と小川の如く流されて。どこまでも冷静に現状を受け止め、自身の歩みを進める三好。
終盤、自身のフィアンセ(だった)雪子に対する振る舞いもクールで痺れた。
女性の性感帯について学ぶ一コマとか、ユーモア忘れていないとこも良い。
この時代は国のために働くことが名誉であったし、その先に軍が解体されることなど思いもよらなかっただろう。どの時代においても、数年先ですらどうなっているのか分からない、というのが本当のところで。今この瞬間を、一歩ずつ積み重ねるより他ないのだろうな。
スパイとして生きる
時代も時代、流石に陳腐化は否めず、価値観も大きく現代と違う為、登場人物の行動原理への違和感や理不尽さ、関係構築への唐突さなど、首を傾げたくなる部分はある。
しかし、物語の構成が見事で様々な要素が上手く重なって重厚なストーリーになっていた。特に主人公と婚約者が互いにスパイとして対比がなされ、敵もまたスパイだというのも上手いと思った。そしてやはり主人公が最後、元はといえば健気に自分を追ってきた婚約者を自らの手で仕留めるのも残酷で切ない。物語冒頭の幸せな雰囲気だったのがさらに効いている。
古くても80、90年以降、基本は現代の映画を見慣れている自分からすると、白黒の昔の映画は鑑賞するのにある程度の体力はいったが、十分満足できた。
…せっかくベルト式のカメラを観客へ提示したのなら、コード表の写真を撮る時それを使えば良いのに。
(ベルトにそのままちっちゃいカメラが付いているのは面白かった。)
スパイには失敗は許されない・・・「あ、すっぱい」などと言ってもシャレにならない
1938年、士官学校を出た三好次郎陸軍少尉(市川)は草薙中佐(加藤大介)の訪問を受け、次々と質問を受けるが、その後陸軍省に出頭を命ぜられる。そこでは18人の若い少尉が集められ、制服を脱いで軍隊用語の使用禁止を命ぜられ、スパイ養成学校に入れられることになった。将来も名誉もないスパイ。名前も偽名を使わされ、家族や恋人、外とのつながりを一切禁じられたのだ。三好の婚約者雪子(小川)とも音信不通となり、彼女は次郎の消息を探し始めるのだ・・・
婚約者を探すため、陸軍参謀本部・暗号班のタイピストとして雇ってもらった雪子。しかし、元の会社の英国人社長ベントリーの情報で次郎が銃殺されたと聞かされる。悲しむ間もなく、その社長から陸軍のスパイを依頼されたのだ!
卒業試験は英国の暗号文解読のためのコードブックを領事館から盗み出すこと。盗み出すことに成功するが、盗まれたことに気づいた英国側がコードをすぐさま変えてしまう。中野学校の名誉を守るため、参謀本部が怪しいと睨んだ次郎。調べてみると雪子が情報を漏らしていたことに気づく。
ノイローゼになって首吊り自殺で1名脱落。バーの女にうつつをぬかし、仲間の軍刀を売ろうとした罪で切腹を命ぜられた学生(実際は刀に飛び込んでいった?)。そして、憲兵に捕まるであろう雪子を自らの手で死に導いた次郎。普通の人間の感情が徐々になくなっていく様子が恐ろしいし、草薙の思想にもろ手を挙げて共感する学生たち。陸軍の暴走を止めようといった考えは敵国側にも共通するのに、どうしてこうもいがみ合わねばならぬのか。戦争が若者たちの心も変えてしまう。
スパイとは真心の職と見つけたり?
「陸軍中野学校」シリーズ第1作。
Amazonプライム・ビデオで鑑賞。
実在した帝国陸軍のスパイ養成機関“陸軍中野学校”を舞台に、スパイになった青年・三好(椎名)次郎と、彼への愛情故にスパイとなってしまった恋人・布引雪子の悲劇を通して、諜報戦、もとい戦争の残酷さを描いた作品。
市川雷蔵の放つニヒルな魅力…! 中野学校の教育―別人に成り切る方法、様々な諜報技術、さらには女を“悦ばせる”術まで教え込まれ、骨の髄からスパイとなっていく様を、虚無感とそれに伴う色気が漂う佇まいで淡々と演じていました。
淡々としていたからこそ、普通の人間から“スパイ”という人種に変貌していく恐ろしさが、浮き彫りになっていくように感じました。任務のためとは云え、恋人である雪子を殺害すると云う“通過儀礼”を終えた彼の心境や如何ばかりか?
草薙中佐が語ったスパイ論―スパイとは真心が肝心である。本当にそうだろうか、と思いました。嘘偽りの無い諜報活動なんてありえない。相手をどれだけ出し抜いて、こちらに有利な状況へと持っていくことが出来るか…。それが全てでは?
言葉巧みに青年たちをスパイの道に引き摺り込んだ所業は、まさに“戦争”そのもので、残酷極まり無い…。そこには真心なんて無い…。青年たちを掌握し、一流のスパイに育て上げた草薙中佐―。本作でいちばん恐ろしいのは、この人だよ…。
やがて三好は、一連の事件を通して気づいていく…。スパイの世界に、真心なんてものは存在しない。そんなのは詭弁であり、あるのは勝つか負けるか、騙すか騙されるか、殺るか殺られるか、と云う単純明快かつ残酷なものである、と…。
スパイとは何か? 市川雷蔵がそれを演じます
これは隠れた名作!面白い!
なるほど本作を入れて5作もシリーズ作品が撮られるはずです
スパイと言えば007シリーズ
本作は1966年5月の公開ですから、007サンダーボール作戦の半年後の公開です
次回作の日本が舞台となる007は二度死ぬは1年後の公開です
企画としては007人気にあやかって日本のスパイ映画をだそうと言うものかと思います
ジェームスボンドは如何にして誕生したのか?
それは007シリーズでは語られません
彼は大戦中に海軍中尉として任官しています
と言うことは本作の市川雷蔵が演じる主人公三好次郎陸軍少尉とほぼ近い年齢になります
ジェームスボンドもまた本作の中野学校のような英国のスパイ養成機関で訓練を積んでいるはずなのです
そして本作での最初のスパイ活動は英国の横浜領事館の暗号コードブックの入手なのです
陸軍中野学校は実在のスパイ養成機関です
当時の教官が後年出版した手記を読んだことがありますが、概ねその内容に沿っています
序盤の広げた地図の下の机に何があったのかのテストや、講義内容はその本にもあったエピソードほぼそのままです
本作では加東大介演じる草薙中佐の個人プレーの組織のようですが、陸軍内部での長年設立の努力が続けられて肝入りで創設されたもので、実在の中野学校は決して寺子屋と揶揄されるようなものではありません
1938年創立なので、開戦の僅か3年前に過ぎません
せめてもう20年早く、第一大戦終結直後くらいの設立であったなら、日本が対米戦争に突入するという自滅の道には進まなかったことでしょう
市川雷蔵は主人公であるもののあまり出番はありません
どちらかと言うと加東大介の方が中盤までは目立っています
スパイとは何か
これが本作のテーマです
終盤はこのテーマの答えとなるエピソードで締めくくられます
そこで初めて市川雷蔵が主人公に配役された意味を見せてくれます
日本のジェームスボンドの誕生です
早く次回作を観たくなりました
敗戦によって日本には情報機関がなくなってしまいました
小説や映画では内閣情報室とか、陸上自衛隊別班とか登場しますが本当のところはどうか分かりません
本作で描かれた陸軍中野学校の系譜を汲んでいるのかも知れません
情報機関がないというのは、濃霧の闇夜をレーダー無しで航海するようなものです
自衛隊と同様に情報機関は、国土と国民の生命と財産を守る為には不可欠な存在だと思います
令和の中野学校が無ければ、戦前のように国家方針の過ちをまた繰り返しかねないのです
市川雷蔵の美しさはいったなんなんだろう
このての映画には興味はなかった。しかし、雷蔵出演が故に一度は観なくては…そんな気持ちが湧いていた。
冷酷さを演じるのは難しい。
感情を出さない演技にはどこか不自然さが伴う。
冷淡な表情には愚かさが付きまとい苦悩ばかりが目立ってしまい観ているものは嘘だと感じてしまう。過剰さは醜さに繋がる。
雷蔵はそうはさせない。
恋人に毒を盛るシーンの表情にその全てが凝縮されている。世を拗ね、無頼の徒として生きる覚悟が垣間見える。もはや。この一作で、この映画のシリーズは終わってしまったかのようだ。
映画版ジョーカーゲーム以上
50年前の作品とは思えない構成力にびっくり。しかも単なるエンターテイメントではなく、スパイの悲劇性や残酷さなども含まれて静かに押し寄せてくる。元々小説のジョーカーゲームが好きで、映画も見たが、エンターテイメントに偏りすぎてスパイ自体を軽く扱っていたが、こちらの作品の方が小説版に雰囲気が似ているといっても過言ではない。
私はスパイになった。私の心は死んだ
戦時中実在し、『ジョーカー・ゲーム』の元ネタでもあるスパイ養成機関“陸軍中野学校”を題材にした1966年の作品。
50年も前の国産スパイ映画?
嘲笑するなかれ。
スパイ映画に馴染み無い日本に於いて、国産スパイ映画として最上級。
ハラハラ緊張感もあるし、見応えもあるし、何よりその悲劇性に胸掻きむしられるほど目頭熱くさせられる。
陸軍幹部候補生の次郎他、草薙中佐によって集められた若きエリートたち。
スパイとしての技能を徹底的に叩き込まれる…。
モールス信号や暗号解読、銃撃といったスパイらしい学習塾のみならず、
服役囚を講師に招いての金庫の開け方、拷問、薬品を用いて人を自然に殺める術。
変装、2か国の外国語、仮の二つの職業訓練。
果てはダンス、女性の落とし方、性感帯まで。
スパイになるという事は、全てを捨てねばならない。
本名も、出世も約束された人生も、愛する人や家族も。
それに耐えられず、訓練中に自殺する者も。
何か意義はあるのか?
スパイと言うと、どうもイメージが悪い。
裏切り、人殺し、盗み。全ては自国の為。
が、彼らを招集した草薙中佐の志は違う。
貧困や紛争などで苦しむ国の原因を探り、その国を救え。
模範として語られる明石大佐(日本の伝説のスパイ、詳しくはWikipediaを)のような真のスパイとなれ。
中盤の実戦は巧みさとエンタメ性もあり。
スパイ肯定映画…と思いきや、そうではない。
スパイの非情さ、悲劇などが非常に色濃く描かれており、10何年も前初見した時もその印象が延々と残っている。
訓練中、不祥事を起こした者が。
大事になれば、存続の危機。
そこで彼らが下した決断は…。
スパイへの固い志、学校を愛し始めた故…と言えば聞こえはいいが、人間性をも殺さねばならない行動にヒヤリとさえする。
次郎には、婚約者の雪子が。
が、軍に行ったきり、次郎は行方不明扱い。
雪子は次郎を探す為、今の仕事を辞め、軍の情報部のタイピストに。
ある時、次郎の戦死を知らされる…。
湿っぽいメロドラマのようだが、彼女の存在がスパイの非情さや悲劇を殊更浮き彫りにしている。
失意の雪子に、ある人物が近付く。
恋人を奪ったのは陸軍。この日本という国を滅ぼしかねない陸軍。
そして彼女は…。
他に方法は無かったのか…?
憂鬱になるくらい、哀しく、やるせない。
市川雷蔵にとっては珍しい現代劇。他にもちょっとお堅い演技の者もいるが、抑圧の無い淡々とした回想の語りは作品に合っている。
加東大介の熱演には確かに負ける。
若き小川真由美が美しい。
ラスト、次郎はある人物を自殺に見せかけ、遺書を書く。その一文に、
“私もスパイだった。私の心は死んだ”
…と、ある。
その言葉を借りるなら、
“私はスパイになった。私の心は死んだ”
スパイ映画というよりは…
スパイ映画というよりはスパイを題材にした人間ドラマという印象。国のために名誉を捨ててスパイに身を捧げる主人公と、それを追う婚約者を巡るあまりに悲しい運命の物語。有名なラストの展開、国への奉公に徹する市川雷蔵演じる主人公の佇まいに痺れる。序盤の訓練シーンはバラエティに富んでいて楽しい。
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