襤褸の旗のレビュー・感想・評価
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2025年の今こその襤褸の旗
明治時代に、渡良瀬川上流(栃木/群馬県境付近)の足尾銅山からの廃棄物によって生じたわが国最初の公害問題とされる「足尾鉱毒事件」と、その問題と生涯戦い続けた田中正造代議士の物語です。力の漲った作品で少し肩が凝ってしまいますが、事件の歴史を知るには最適のお話でした。
足尾鉱毒事件も、田中正造の名も、彼の天皇直訴事件も日本史の一部として知ってはいましたが、国の取った公害解決法が発生源の特定と対策ではなく、被害と抗議が大きな村からの住民排除(強制執行)だったとは知りませんでした。撮影協力したとクレジットされていた三里塚の人々は当然自分達の身の上に重ねたでしょう。
「亡国に至るを知らざればすなわち亡国の儀」の彼の言葉は、無責任な政治家の言葉とそれに相乗りする人々が横行する2025年のこの国にまさしく掲げるべき襤褸(らんる:ぼろきれ)の旗だな。
時代も人もよく描いている
(30年程前にテレビ放送していたものをVHS録画したものをふと思い立って観返した)
白黒映像でつくられていて、昔風な感じをよく出しています。演じるのは皆名優ばかり、主演の田中正造役の三国廉太郎は眼光鋭い、迫力あります。
明治の世、ちょうど日露戦争の頃で国全体が世界に向けて発展を志向し、そのためには国民生活を犠牲にしてでも、という時代。足尾銅山の鉱毒問題が起き、正造らは操業停止の論陣を展開。政府は鉱毒対策として下流の谷中村を廃村にする。強引なやり方に憤り、反対運動をする正造と村民たち。魚が浮き上がる死の川、田畑では農作物が枯れていく。そして最後、反対農家が次ぎ次ぎに引き倒されるシーンは本物の家屋でもって撮影しています。真黒い土埃りをあげてズンと壊れる様はCGなんかじゃない迫力です。
政府に抗議する人々にもいろいろな主義・立場があり、必ずしも一致したものではない。正造ら、社会主義者、キリスト教関係者それぞれの考えの違い・人間模様もよく描かれています。また、強制執行にきた官憲。この種のドラマによくある単純ゴーマン人間ではなく、礼節は保っています。正造の抗議の論を、認めはしませんがちゃんと答えます。こういう描写はよいと思いました。
また、最初の頃の正造は黒々とした髪の壮年だったのが、おわりの頃は白髪だらけの老いぼれた感じになるのはメイクと演技の両方で秀逸。
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