夜の女たちのレビュー・感想・評価
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戦後の荒廃の世に虐げられた女性を厳しく描いた溝口健二監督の力作
女性の解放と自由を主張した前作「女性の勝利」「女優須磨子の恋」では、溝口監督らしい演出を感じることは出来なかったが、この作品で久し振りに戦前の力量を味わえた。題材の下層の人々の生活が、溝口監督のリアリズム演出で見事に説得力を持って描かれている。成功作として戦後の代表作のひとつに挙げられるであろう。
大和田房子は、敗戦後の生活苦のため着物などを質に入れて、細々と夫の家族と一緒に住んでいた。夫の復員を待ち望んでいたが、戦友から夫の死を知らされる。不幸は続き、病気の子供も死んでしまう。それでその戦友の紹介で社長秘書として働くことになり、アパート暮らしが始まる。この社長栗山は女性にだらしなく、また裏では闇組織と取引しているようなのだ。しかし、そんな状況でも生きて行くには我慢するしかなかった。そんな時、朝鮮半島から引き揚げダンサーをしていた妹夏子に出会う。彼女は、房子のアパートに転がり込むが、ある日栗山が夏子と密会しているところを見てしまう。男の身勝手さに嫌気がさした房子は、その後夜の女に身を落とす。ここまでの展開に、多少の強引な転落の作劇がない訳ではない。しかし、溝口演出に興味本位的な見せ物の観点は無く、あくまで現実に起こりうる女性の悲劇として、人物を掘り下げ心理を表現し人間を描いていく。
映画はそれから、娼婦たちの赤裸々な生態を真正面から捉えて行く。夏子が姉房子の行方を追って探すのだが、警察の取り締まりに会い間違われて病院へ収容される。この病院の場面の溝口演出が素晴らしい。夏子は妊娠と性病に罹っていることが明らかになり、房子の衝撃的な娼婦姿の変化も加わり、何処までも落ちていくこの姉妹のどうしようもない現実が浮き彫りになって行く。それは、亡き夫の妹が幼くして身を落として、房子ら以上の酷い状況になっている悲劇を加えることで、社会的な視野に立った問題提起としての作劇が完成されている。ラストの女の戦いに教会の十字架を入れた廃墟の場面は、作品の厳しさと作者の願いが込められた象徴的なシーンになっていた。
戦前の力強い溝口健二演出が復活したようなリアリズムの映像美がある。男に騙される女性の嘆きや苦しみ悲しみを描いて蘇った溝口映画。女性たちをとことん追い詰め、厳しい現実を客観的に見詰めるが、社会批評の視点が加わったヒューマニズムが感じられる戦後の作品らしい力作となる。田中絹代の演技も作品の主題にあった熱演を見せる。
1978年 7月11日 フィルムセンター
戦後すぐの混乱の中での悲惨な女性の運命 75年も昔の21世紀とは隔絶した物語? 果たしてそうでしょうか?
田中絹代のファンなら衝撃を受けるかと思います
冒頭こそ彼女らしい貞淑な主婦の姿で登場します
しかし中盤からは予想も想像もできない、観たくなかった娼婦の姿形、言葉遣い、物腰で登場します
彼女とは思えない程です
西鶴一代女の零落した姿形を演じた彼女よりも衝撃を受けました
1948年の大阪
復興は進みつつも、焼け跡も、人々の心にも戦後の混乱がまだまだ残されている光景が舞台です
彼女の演じる夜の女とはパンパンのことです
娼婦よりも街娼が正確な表現です
8年後に溝口監督が撮る赤線地帯の娼婦なぞ可愛いいもので、本作に比べれば綺麗な世界というべきです
これでもかとばかりに壮絶な女性の運命が描かれます
殊にパンパン狩りで収容された性病科の病院のシーンは圧巻です
パンパンの登場する映画は数あれど、これほどまでに現実の姿をリアリズムで撮った映画を観たことは有りません
もちろん生まれる以前の物語ですから、現実なぞ見たことも経験したこともないのですが、その映像は現実を切り取っているとハッキリ感じ取ることができます
ロッセリーニ監督のネオリアリズモと通底するものです
戦後すぐの混乱の中での悲惨な女性の運命
タイトルバックとエンディングにはベートーベンの運命をアレンジした音楽が使われています
75年も昔の21世紀とは隔絶した物語?
果たしてそうでしょうか?
ある有名お笑い芸人がラジオの自分の番組で軽口を叩いたことが物議を醸しているというニュースを昨日見ました
コロナ禍で職を失ったり、生活が苦しくなる人がでています
だから、しばらくすると綺麗な女性が風俗嬢に沢山なるからこれから楽しみだとかの心無い軽口をしたそうです
非難されて当然でしょう
これを発言した本人は冗談のつもりで軽く口から発したのでしょう
しかし彼にそうさせた精神は本作で溝口監督がテーマの中心に据えて見つめたものと言えます
溝口監督が戦前の祇園の姉妹や、そして戦後すぐの本作で描こうとしたことは、何十年も経っていても、21世紀においてもなお変わりはしないのだということを白日にさらしているのだと思います
そのお笑い芸人には、本作を観ることを心からお勧めしたいと思います
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