「初期の松田優作と後期の松田優作を繋ぐブリッジの作品と言えると思いますその重要な転換点の作品です」ヨコハマBJブルース あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
初期の松田優作と後期の松田優作を繋ぐブリッジの作品と言えると思いますその重要な転換点の作品です
絵になる街、横浜を舞台にした映画は数多くあります
古くは石原裕次郎や赤木圭一郎が主演の日活無国籍アクション映画が有名
黒沢明監督の「天国と地獄」も横浜でした
その後、1970年代から1980年代にかけてテレビドラマで「プロハンター」や「あぶない刑事」とか横浜が舞台が増えます
その走りは本作だったのでは無いでしょうか?
本作は観る人を選ぶかも知れません
というより映画の側が積極的に観客を選んでいます
以下の会話がチンプンカンプンな人なら観なくてもいいよ、どうせ観てもわかんないでしょうからって
ピンクフロイドの珍しいのが出回ってるてんで、取り寄せたんだけどよ、どうもガセだな
音悪いし、ギターはメチャよ
いつ頃の話だ?
73年だ、ロスでテープに録ったという噂だけど聴いてみるか?
たぶん関内のJAZZライブハウス「エアジン」での会話
チョイと会話内容と場所はミスマッチ
でもそれがまたいいリアル感を醸し出してます
序盤のクラブは、当時は廃墟だった赤レンガ倉庫の一角を「港町のバー街」風に改造して撮影してます
ですからもちろん架空のクラブ
店名は「CLUB MANHATTAN」
宇崎竜童はそのクラブの経営者役で登場します
遅刻したBJ が、彼から嫌味を言われ演奏するシーンが早々にあります
曲は「灰色の街」
ステージで歌っているシーンは、オープニングと終盤の2回
演奏シーンでバックを務めるのは、レコーディングやLIVEで活動を共にしていた CREATION
当時は知る人ぞ知る名ブルースバンドながら世間的には全くの無名
当時はクリエイションと表記しました
本作の4日前に発売したテレビドラマ「プロハンター」の主題歌「ロンリー・ハート (Lonely Hearts)」がその年の夏頃から大ヒットになり超有名バンドとなったのです
竹田和夫やアイ高野、チラッとヒロ小川の皆さんが確認できます
エディ藩さんは確認できません
音楽の使い方は、21世紀から見れば陳腐かも知れません
しかしこの時代、日本の映画で初めてロックをまともに取り扱っている作品の一つなのです
本作があったから今があるのです
ライブ終了後の明け方、背景に見えるのは大黒大橋
ベイブリッジも湾岸線もできる前のことです
親友の刑事椋が撃たれたのは根岸森林公園みたいです
椋を演じたのは内田裕也、短い登場シーンが二回だけです
至極普通に平静にしてます
それがものすごい存在感を示すのは圧巻です
アリの手下が担ぎ込まれて傷の手当てを受けているのは、黄金町とおぼしき女の闇医者のところ
女は実は医者ですらなく、昔看護士だっただけかも知れません
彼女はBJ にポンを打つかと聞きます
もちろんヒロポン(覚醒剤)のことです
これは黒澤監督の「天国と地獄」の黄金町のシーンへの敬意だったと思います
アリからピンク電話に掛かってくるディスコは本牧に実在した「LINDY」
店内にはクラッシックな黄色いシトロエンが置かれ、運転席がDJブースにになっていました
劇中でも一瞬チラリと映ります
ファッションディスコと名乗っているだけあって
多分日本で初めて、入店の際の服装チェックや男性同士での入店を禁止したディスコで、当時最先端を行く店でした
そのリンディもディスコブームが終焉をむかえた1986年頃には閉店したはず
写り込むエキストラではない街行く普通の横浜の人々のオシャレなこと!
普通のサラリーマンがボタンダウンに3つボタンのトラッドスーツです
港の見えるカフェテラスのシーンは山手のドルフィン
あのユーミンの超有名な歌「海を見ていた午後」の歌詞にでてくるお店
二人はクリームソーダでは無く、珈琲を飲んでました
終盤の大型客船は山下公園の氷川丸
今とは塗装が違います
この当時の船体は明るいグリーンと白色に塗装されていました
そのあとブルーの時代があり、今の黒と白の現役当時の色に復元されたのは88年ぐらいのこと
もちろん観光用なので動きません
劇中では、シアトルかどこかに出航しそうな雰囲気ですがあくまでイメージです
彼女はここで麻薬取引の大金を奪取した亭主とここで落ち合う場所であっただけです
しかしBJが大金の入ったトランクの上に亭主のサングラスを置いて企みは全て潰えたと知らせます
夜の山下公園はデートに最高の場所です
恋の炎が燃え上がること必定です
そこが民子とのお別れの場所になります
BJ が買い物袋を抱えてアートビルから出てきたところは馬車道、太陽の母子像が写り込みます
死体の髪を洗ってあげ、女の子の姿から16歳の少年らしいものに着せ替えてあげると、なにやらズボンの中や長袖のボーダーシャツの中に、エロ雑誌からヌードグラビアのページを破いて入れ始めます
それが本来の彼に戻してやれるBJ なりのせめてもの供養なのでした
本作は1973年の洋画「ロンググッドバイ」が元ネタ
同作の原作はハードボイルドの巨匠レイモンド・チャンドラーの小説「長いお別れ」
ロンググッドバイ
本当の長いお別れ
親友の椋、昔の恋人民子、16歳の少年
そして今までのBJ にも
ラストシーンは「マリーズ・ララバイ」が流れる中虚しく歩くBJ を低いカメラが見上げて終わります
撮影は仙元誠三
寒色の照明と、敢えて露光不足にしつつコントラストで美しい映像
息を呑む程のシーンが幾つもあります
例えば、火葬場からたった一人で白い遺骨箱を抱えて真っ直ぐに歩く黒色喪服姿の民子のシメントリーな構図
例えば、山手の代官坂トンネルのシーンはトンネルの先は青い照明が光り手前はトンネル内で真っ暗
しかしトンネルの天井にはナトリウムのライトがリズムを持って斜めに並んでいるのです
枚挙に暇がありません
現代なら陳腐に感じるのかも知れません、
しかしこの当時こんな映像は他には無かったのです
始祖であったかも知れない映像なのです
なにもかも最高です!
松田優作のベスト映画です!
松田優作の演技は、エキセントリックさが、表面から内面に押し込まれます
抑えた演技で淡々として台詞も、力を込めずボソボソと話ます
これが本作以降の彼が出演していく名作群の演技の出発点であったのです
初期の松田優作と後期の松田優作を繋ぐブリッジの作品と言えると思います
その重要な転換点の作品なのです
ロンググッドバイ
松田優作の東映セントラルフィルム出演作もこれでお仕舞いとなります
なんか最近、横浜も神戸も舞台になっている映画が無くなってませんか?
港町を舞台にしたカッコいい映画をそろそろ観たいものです