「地獄の申し子」ゆきゆきて、神軍 manamboさんの映画レビュー(感想・評価)
地獄の申し子
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否応なく地獄を見ることになる。
多くの犠牲者、戦死者、餓死による日本兵の死者を出したニューギニア戦線から生きて帰った元兵士の奥崎謙三は、自ら神軍平等兵と名乗り、国家を否定し、昭和天皇や田中角栄に攻撃を企てる。この映画では、戦後40年近く経った80年代前半、終戦後にニューギニアの日本軍で兵士が2名処刑された事件について当時の当事者であった上官などを突然訪ね、言葉と暴力によって真相を暴こうとし、ついには拳銃による殺人未遂事件まで起こしてしまう。
奥崎の行動原理は宗教原理主義のテロリストと同じで、自分を神の道具とみなし、神の意志を体現する者だと信じているので、彼にとっては殺人行為でさえあらかじめ免責されている。そんなものは絶対に許容できないが、奥崎が暴き出した戦争の地獄、敵兵を、現地住人を、そして同じ部隊の日本兵をも殺して肉を食べた地獄は、あまりに凄惨で酷く醜悪で、奥崎の悪がかすんでしまうのだ。ここで自分の倫理観が揺さぶられる。
奥崎謙三は戦争の地獄が産んだ怪物だ。問題は、地獄の副産物による犯罪行為を断罪するだけでは、地獄に向き合うには不十分だということだ。
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