「集団的不条理に言論と暴力であらがう男」ゆきゆきて、神軍 h.h.atsuさんの映画レビュー(感想・評価)
集団的不条理に言論と暴力であらがう男
終戦直後の戦場で行われた処刑事件の真相を徹底的に究明するための孤軍奮闘する奥崎謙三氏の姿を描いたドキュメンタリー。
暴力でことを解決しようとする彼の行動は決して許されるものではない。
しかし、平時の法が及ばない閉ざされた場所(戦場)でなにがおこなわれたか。
当事者たちしかわからない事実は解明可能か。
誰が真実を言って、誰が嘘を言っているのか。
「みんながやってきたこと」、「上官に言われたからやむを得なかった」、「(自分たちも苦しんできたのだから、)もう放っておいてくれ」、彼らは口々に言う。
やはり、やり過ぎた行為である。が、奥崎氏の執拗な追及がなければ、誰も口を割らずに闇に葬られていたことであろう。たまたま奥崎氏が関わった部隊の事案だっただけで、多くの戦場でどれだけ同じような悲劇が繰り返されてきたのだろうか。
80年代前半で撮影されたもので映像は古く、NHKでまとめられるドキュメンタリーとは全く異質。今だったら放送コードに引っかかりそうな酷い話がたくさん出てくる。
奥崎氏はヒーローではない。
正義の実行者でもない。
しかし、戦争の醜さ、残酷さ、集団的不条理を知るための貴重な映像資料である。
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