「オカルト風味」八つ墓村(1977) 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
オカルト風味
古い記憶にある映画のコピー/フレーズとして、サスペリアの「けっしてひとりで見ないでください」と人間の証明の「母さん僕のあの帽子どうしたでしょうねえ」と「八つ墓村のたたりじゃあ」を覚えている。奇しくもすべて1977年だった。
ドリフが濃茶の尼のセリフ「たたりじゃあ」を寸劇コントにつかったこともあり、おそらく学校でもなにかにつけて「たたりじゃあ」と言った記憶がある。
じっさい八つ墓村は『配収19億8600万円という松竹映画の歴代に残る大ヒット作』だったそうだ。(『』はウィキペディア「八つ墓村 (1977年の映画)」より)
ただし興行収入とクオリティは一致しておらず、昔見た記憶は消えていたが、今見ると長くて冗漫な出来栄えだった。
1976年に市川崑監督の犬神家の一族が公開され、当時は横溝正史ブームに沸いていた。松竹は東宝に対抗すべく、金田一耕助に渥美清をあて、オカルト風味を増幅し『2年3箇月の製作期間と7億円(現在の15億円分)の制作費をかけ』て八つ墓村をつくり、鳴り物入りで封切った。結果、興行的に成功し「たたりじゃあ」ははやり言葉にもなり、映画八つ墓村は大成功をおさめた、といえる。
批評も当時は悪くなかったようだが、時を経て見ると古さが目立った。洞窟にはハリボテ感があり、小竹・小梅はアダムスファミリーのようだ。
津山事件を扱ったものなら丑三つの村(1983)のほうが猥雑さがあっていい。
そもそも日本映画ベスト10にさえ入れてしまえる1976年版犬神家の一族との比較は酷な話だとは思う。
ところで横溝正史ブームとは恒久永続的なものと言える。横溝正史的世界がホラーの一分野を形成しているからだ。
犬鳴村、樹海村、牛首村、ヴィレッジ、湯殿山麓呪い村、すなわち旧弊な村の因習にからめとられる現代人という構成で話がすすむホラージャンルは常に王道にある。
おどろおどろしい村の因習へ、とても呑気で日常的な構えの金田一耕助が介入していくところが横溝正史の魅力だが、金田一耕助という文明が介入しなければ腑抜けたホラーになってしまう。
雨穴さんの話が面白くて怖いのは文明サイドに雨穴さんや栗原さんがいるからだと思う。結果として、今つくられる横溝正史型ホラーは腑抜けている。面白いのは罵倒村ぐらいだろう。
この映画八つ墓村も推理小説をオカルト方向へ舵取りしたせいで横溝正史風味をことごとく削いでいる。渥美清も、もっとコミカルに位置づけるのかと思ったのにビーンのメグレという感じ、キャラクタが生かされていなかった。
さらに主役は荻原健一。個人的にショーケンは数回の結婚歴・逮捕歴がある人という認識しかなく、芸能界の「昔やんちゃしていたタイプ」の一人。おそらく横溝正史らしからぬ配役を狙ったのだとは思うが、いいところが解らずじまいだった。