「表柳生の陰謀」柳生一族の陰謀 TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)
表柳生の陰謀
新旧スター豪華競演の時代劇。
映画産業が斜陽化するなか、東映が社運を賭けたと言われる大作。
柳生宗矩を演じた萬屋錦之介は新境地を拓いた『子連れ狼』の拝一刀そのままの雰囲気で登場。それはいいが、「親に合いては親を殺し、仏に合いては仏を殺す」なんてセリフまで出てくるのは、いかが致したものか。
雰囲気は一刀そっくりだが、実子を犠牲にしてでも目的を遂行しようとする宗矩のやり口は、さながら柳生烈堂。タイトルからも、『子連れ狼』の影響を受けていることは疑うべくもないだろう。
二代将軍・徳川秀忠が不審死を遂げたあと、跡目を巡り家光、忠長の両陣営が暗闘を繰り広げる。
時代劇の体裁を採ってはいるが、やってることは、はっきり言ってヤクザの抗争。
監督は深作欣二。…ならば、むべなるかな。
家光上洛に随行する朝廷の勅使殺害に加担した根来衆を証拠隠滅のために殲滅する設定が強引。
それまでに素性を隠さず襲撃する場面が何度もあるし、詔勅を携え西国へ下向した勅使を斬った十兵衛が目撃した従者を見逃したこととも矛盾する。
マンやハヤテらを含む大人数を打ち漏らしたままなのも迂闊すぎ。
そんな突っ込み所満載の作品なのに何度もTVでリメイクされる理由の一つは、本作が創出した時代劇史上屈指の悪役、烏丸少将文麿のおかげ。
映画の大ヒットを受けて製作されたドラマ化一作目でも同役を演じた成田三樹夫はヤクザ映画の悪役が定番だったのに、本作以降、風向きが変わった。
個人的には松田優作主演のドラマ『探偵物語』の刑事役が印象的。「工藤ちゃーん」のセリフが今なお耳朶に残る。
今あらためて見ると、シナリオだけでなく構図や色彩に拘った大映時代劇に較べ見劣りする印象。TV時代劇で粗製濫造を繰り返した結果の安直さが本作にも影響しているように感じる。
劇場公開時まだ高校生だったが、家光の生首の作り物感には当時も呆れた。『子連れ狼 死に風に向う乳母車』(1972)で旧大映スタッフが見せたプロの心意気を当時の東映スタッフにも発揮して欲しかった。
本作に限らず、この頃の東映時代劇は音楽もチープ。
ケチばかり付けたが、萬屋錦之介の熟達した演技と存在感は本作最大の見どころ。
千葉真一との新旧交代を予感させるラストシーンも含め、時代劇に殉じた錦之介の集大成ともいえる。
ハヤテを演じた当時の真田広之は芝居下手すぎ。
それが今や日本を代表する国際スター。
やっぱり経験て大事なんだと、あらためて実感。
BS日テレにて視聴。