劇場公開日 1995年12月23日

「アニメーターの見本市のような、三つの異世界。」MEMORIES NandSさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0アニメーターの見本市のような、三つの異世界。

2024年11月11日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

笑える

怖い

難しい

独特の空気感ながら、かなり楽しめた。

まず私は、『AKIRA』を観たことがないし読んだこともない。音楽はなんとなく知っているし、バイクやオマージュは観たことがあるがそれぐらいである。
なので、大友克洋という人物の凄さも知らないまま、この感想を書いている。

その上で、「面白かったな」と感じた。三つの短編なので、壮大なストーリーがあるわけではない。が、それでも一つ一つにしっかりとしたボリュームがあってかなり満足した。

まずは『彼女の想いで』。
世界観は、現在観ても"未来"であることに変わりがない。ここは重要ポイント。1995年の作品なのだから、色あせていたり古い未来観があっても良いはずだが、それが無い。新鮮ではないが古いとも感じなかった。
その上で、(正確に言えば違うが)AIによる恐怖を描いているが、これが現代と非常にマッチしている。「うわ怖ぇ」となるし、オペラ寄りの音楽も素晴らしい。恐怖を後押しする材料になっている。
あと、かなり吹替洋画チックであった。喋り方といい、キャラクターの人種といい、この辺りは意図したものだと思う。大友さん原作から来ているイメージかもしれない。現実離れしたことができるアニメとはいえ、違和感なく成立させているのは巧い部分だ。
ストーリーとしては三作の中では最も凝っていたのではないだろうか。伏線の貼り方も良い。観直すと意外な発見も多い。
小粋なセリフがちょこちょこ挟まるが、これはあんまり活きていない印象。吹替テイストにした影響もあるか。

次は『最臭兵器』。
タイトルからすでにネタバレ状態ではあるが、ギャグに振り切っている分問題はない。
最初は、陽気で日本に似つかわしくないテーマと、ザ・日本田舎の風景から始まる。そして不穏な様相から日本全土を巻き込んだ大事件に発展していくのだが、様子が全体的にシュールで面白い。主人公である信男のどこまでも能天気な様子が、大慌てな防衛庁との対比となっている。さらに、一般人が臭いに悶え倒れていく様子や(なんか汚い)黄色だったりと、笑えてくる要素がたんまり入っている。
客観的に観ると、怪獣もしくは災害パニック映画であり、ホラーに分類されかねない内容だ。それをあの手この手で、SFコメディ作品として成立させているのには「巧い」と感じざるを得なかった。
オチまで完璧。個人的にはアメリカから来たお偉いさんの顛末が好き。
構成は比較的シンプルかもしれないが、演出は最も凝っているように感じた。バランスを間違えるとホラーだからね。振り切ることと、振り切りすぎないバランスが巧い。
三作の中では一番好き。

そして『大砲の街』。
大したストーリーはない。あくまで何も起こらない日常である。が、全てが非日常の世界観なので観ていて飽きない。
大砲を撃つためだけに造られた街、という設定。なのに全体がスチームパンク。さらに無駄に多用される人材。形骸化した勲章と階級制度。戦時中の日本を思わせる一般市民の生活。どれだけ文明が発展しようとも変わらない貧富差。子供の持つ夢・憧れと想像力、対比するように描かれる大人の諦めと疲労。
絵本のような描かれ方をしているが、その中に様々なこだわりと皮肉と変態性が詰め込まれている。時間としては一番短いが、一枚一枚の情報量が濃く、充分満足できる作品だった。

このように、三作とも飽きることなく楽しむことができた。なかなか趣深くて楽しい2時間だ。
ただ、音響が全体的に悪いように感じた。テレビで観たからかもしれないが、セリフに聞き取りづらい部分があり、状況を把握できない瞬間があった。特に『彼女の想いで』で多くみられる。
あと、絵柄が大友克洋に寄りがちである(『大砲の街』は別。)。ちょっとクセがあるので苦手な人は苦手かも。

と、まぁ正直今の時代では流行らなそうな雰囲気ではあるが、技を感じられたり、色々と考えさせられたり、特異な世界観ながら惹きこまれる内容だった。
大友克洋好きや、日本アニメ好きはぜひ。(面白いので)ツウになった気分にもなれる。そんな作品。

NandS