劇場公開日 1992年5月16日

「骨太の社会派映画としての一面をあわせ持ちながらも誰でも楽しめる娯楽作品として仕上がっており、抜群のバランス感覚、表現者としての強い心意気を再確認」ミンボーの女 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0骨太の社会派映画としての一面をあわせ持ちながらも誰でも楽しめる娯楽作品として仕上がっており、抜群のバランス感覚、表現者としての強い心意気を再確認

2025年3月29日
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鑑賞方法:映画館

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2月21日(金)からTOHOシネマズ日比谷さんで開催されている「日本映画専門チャンネル presents 伊丹十三 4K映画祭」(監督作品を毎週1作品、計10作品上映)も6週目。本日は『ミンボーの女』(1992)。

『ミンボーの女』(1992/123分)
「暴力団対策法」施行(1992年3月)直後のタイムリーな時期に公開。
公開直後に監督が刃物を持った組関係者に襲撃され重傷を負う事件や病院に搬送される監督の姿が強く印象に残っていますね。

当時はまだ『極道の妻たち』『激動の1750日』などのヤクザをアンチヒーローとして描く風潮のなか、実社会に溶け込む身近なヤクザの実態を実にリアルに、そして彼らに毅然と立ち向かう市井の人々を痛快に描いた本作は題材の新鮮さに当時感嘆しました。

初公開以来33年ぶりの鑑賞ですが、今ではすっかり鳴りをひそめていますが、公開当時はまだまだ彼らが横行闊歩していた時代、今観てもかなり刺激的に攻めた内容で観ているこちらもヒヤヒヤします。
今更ながら多くのリスクを負いながらも、作家として強いメッセージを発信し骨太の社会派映画としての一面をあわせ持ちながらも、いつも通り誰でも楽しめる娯楽作品として仕上がっており、監督の抜群のバランス感覚の凄さ、そして表現者としての強い心意気を再確認できましたね。

また監督作品の見どころはキャスティングの良さ。
本作でもひ弱なでヤクザに物怖じするヤクザ対策担当の鈴木勇気(演:大地康雄氏)、若杉太郎(演:村田雄浩氏)が、弁護士・井上まひる(演:宮本信子氏)に助力されながら、最後はホテル従業員だけで撃退できるまでに成長。撃退後の二人の自信に満ちた顔つきが序盤とギャップがあって実に良いですね。
ヤクザ側の伊東四朗氏、中尾彬氏、小松方正氏、我王銀次氏、鉄砲玉の柳葉敏郎氏もまさに適役。
その中でもホテル総支配人を演じた宝田明氏は体躯も長身でスマート、所作も優雅で格式ある高級ホテルの総支配人がまさにピッタリでしたね。

本作が製作されたこと、監督が襲撃されたことで世間に「暴力団対策法」が周知、暴力団への風当たりがさらに強くなったことは事実。歴史的価値のある作品ですね。

矢萩久登