「罪の為に」みな殺しの霊歌 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
罪の為に
加藤泰監督1968年の作品。
それまで時代劇や戦前後の任侠モノが多かった加藤監督にとって初の現代劇。
その題材は犯罪劇で、非常にショッキングな問題作…。
都内のマンションの一室で、一人の(今で言う)セレブマダムが暴行を受けた上、惨殺体となって見つかる。
その元には、4人のセレブマダムの名を記した紙が。
当事者たちは何か思い当たる事があるのか顔を白くするが、だんまりを決め込む。
彼女たちが隠す“秘密”とは…?
そしてまた一人…。
獲物を狙うかのように現れた一人の男。川島。
彼は逃亡中の殺人犯。
セレブマダムを狙う快楽犯なのか…?
否。
殺害時、怨恨のようなものが感じられ…。
川島は時効まで後少し。そんな危険な殺人を犯しながら、それ以外は身を隠すようにひっそりと生きている。
ある下町の食堂。春子という若い店員と心を通わす。
実は川島には以前にも、心を通わせた相手が居た。クリーニング店の少年、清。
が、彼は死んだ。…いや、正確に言うと、自殺した。
彼を死に追いやったのが…
セレブマダムたちは一人、また一人と殺されていき、最後の一人。
警察から何があったのか問いただされ、遂に白状する…。
当事者のセレブマダムたち5人で、マンションの一室で、昼下がりのポルノ映画鑑賞会。
そこへクリーニング物を届けに来たのが、清。
ポルノ映画を見て、欲情ムンムンのマダムたち。そこに現れた純朴そうな少年。
言うまでもないだろう。
可愛がりたい。食べちゃいたい。それを言葉通りに。
羨ましい~!!…と思う人も居るだろう。
が、彼は違った。純真が故に、心に大きな傷と陰を負った。
清は川島に打ち明ける。
しかし清は自ら命を絶ってしまった。
たった一人の、心を通わせた相手。
こんな世の中で唯一の、美しいもの。
それをお前たちは、殺したんだ…。
ほとばしるような熱い漢のドラマや情感たっぷりの男と女の愛を描いてきた加藤監督の中では、明らかに異質。
犯罪や生々しい殺害/エロシーンもあり、松竹作品としても異色作。
“構成”として山田洋次が参加。山田洋次がこういう犯罪サスペンスを手掛けるのもさることながら、山田×加藤の名匠二人のコラボも超贅沢!
随所随所に山田節と言うか、ユーモアや人情要素がスパイスされ、この陰湿な作品に巧みな歯止めになっている。
人間臭い刑事に松村達雄、春子に倍賞千恵子、クリーニング店主に太宰久雄…こ、この面子は!
食堂の雰囲気は完全にあの団子屋…!
川島が食堂を初めて訪れるシーン。春子らが何気なく楽しげにはしゃぎ、川島がそれを仏頂面で見つめる。山田人情劇と加藤漢劇がここで初めてクロスした、印象的なシーンだった。
佐藤允の熱演。
演じた川島は殺人犯。
犯した罪は赦されない。例えどんな理由でも。
罪に罪を重ねていく。
川島は紛れもない罪人。
ならば、5人のマダムはどうなのか。
自分たちの歪んだ欲の赴くままに、一人の少年を死に追いやった。
罪は罪。が、問われたとしても、強かん罪が妥当だろう。
その無念は誰が晴らすのか。
聖人君子なんて居やしない。
誰もが何かにすがる。真人間だろうと。罪人だろうと。
復讐と憎悪の中で、もう一人、心を通わせる相手に会えた川島。
もう少し早かったら…。
ほんの少しばかりの救済が、殊更悲しい罪の歌を歌う…。