みな殺しの霊歌

劇場公開日:

解説

広見ただしの原案を、「ハナ肇の一発大冒険」の山田洋次と、「懲役十八年」の加藤泰が共同で構成にあたり、三村晴彦がシナリオを執筆した。監督には加藤泰があたったスリラー。撮影は「雌が雄を喰い殺す 三匹のかまきり」の丸山恵司。

1968年製作/90分/日本
原題:I,the Executioner
配給:松竹
劇場公開日:1968年4月13日

ストーリー

殺人犯として全国に指命手配されながら、川島はうまく逃げのびて、あと一年で時効が成立しようとしていた。ある町の工事現場で名を変えて働いていた川島は、クリーニング店の少年と親しくなったが、その少年が数人の有閑マダムの開く秘密パーティでなぶりものにされて自殺した時、女たちに激しい憎悪を抱いた。川島は復讐を決意した。女たちの一人孝子が、情交のあと彼に殺されたのはそれから間もなくだった。ある日、川島は行きつけの食堂で働く春子に好意を持ったが、彼女が切羽つまった情況で暴れ者のやくざの兄を殺し、執行猶予中の人間と知って、一層、親しみを感じた。川島は、殺人が虐げられた人間の、最後の抵抗手段と思っていたのだ。そして、川島の当面の仕事は、少年を弄んだ女たちを殺すことだった。やがて、一流会社の部長夫人圭子、そして操が次々と全裸のまま、情交の痕跡を残して殺された。いずれも秘密パーティの一員であり、川島の手にかかったものだ。警察も、猟奇的な連続殺人に本腰を上げ、笠原本部長は必死に捜査を始めていた。しかし、笠原は、殺人事件が秘密パーティとクリーニング屋の少年の自殺と関係があるらしい、と分っただけで、犯人の動機を知ることは出来ず、捜査は行き詰った。そんな時、デザイナーの美佐が殺された。やはり、パーティの出席者で、殺人の情況は同じだった。笠原は、少年の葬式に焼香に現われた労務者風の男のことを聞き込み、人相や手口から川島を犯人と割り出し秘密パーティの最後の女を保護すべく、パトカーを向かせた。その頃、川島は春子に自首を勧められたのを振り切り、最後の一人を殺していた。だが、犯行現場のマンションの一室から春子に電話をかけて待ち合せを約束したあと、川島が窓の外に見たのは、数台のパトカーだった。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

4.0摩天楼の隙間に吹きすさぶ孤独の病原菌

2022年10月7日
iPhoneアプリから投稿

実録路線時代以前で印象に残った任侠映画といえばマキノ雅弘の『博奕打ち 総長賭博』と加藤泰の『明治侠客伝 三代目襲名』の2本だが、とりわけ『三代目襲名』は撮影技法に粋が凝らされていて面白かった。真上から神輿を見下ろすアングルから徐々に祭日の喧噪へとフォーカスが流れていく序盤のシーンは一度見たら忘れられない。

そんな加藤泰が山田洋次とタッグを組んで取り上げたクライムサスペンスが本作。加藤のアクロバティックな撮影技法と山田の重厚なヒューマンドラマが交じり合うのだから面白くて当然だ。

佐藤允演じる擦れた上京青年は、ある理由から富裕層の女たちを次々と殺害していく。その理由というのが不思議なもので、それは女たちに性的な嫌がらせを受けて自殺した名も知らぬ同郷の知人のためだという。当然、女たちは「そんなことで!?」と不可解げな断末魔の叫びを上げて死んでいく。刑事の男が言っていた通り、女にちょっかいを出されたことを気に病んで死ぬような男は(その逆パターンに比べれば)そうそういない。それを聞いて復讐に燃え上がる男などはもっといない。

ただ、内容を見ていればわかる通り、青年の復讐に対する熱意は本物だ。決して退屈しのぎの道楽や短絡的なルサンチマンから殺人行為に及んでいるのではない。

裕福な女たちは東京が放つ斥力の存在を知らない。来る者は誰であろう拒まないという大都市の寛容さが、実のところ酷薄な無関心と表裏一体であることを。しかし北海道の田舎という「外部」からやってきた青年はそれを痛いほどよく理解している。

身一つで東京にやってきた彼を待ち受けていたのは、自分を眼差すものが何もないという底なしの孤独だったのだ。したがって彼が倍賞千恵子演じる下町娘に惹かれていくのも無理はない。彼女だけは青年を一人の人間として自分の内側に受け入れてくれた。

話は逸れるが60年代後半の倍賞千恵子ほど美しい女優もそうそういないんじゃないかと思う。可憐さの中に陰りがあるんだけども、脂っこい媚態は少しも感じられない、そういう不思議な感じ。劇中で彼女が「あたし細く長くなんか生きたくないわ」とぼやいてみせるシーンがあるが、いや、アンタは80超えても稀代の名女優のままですよ!と鼓舞したくなった。

閑話休題。

しかし下町娘も結局最後には青年のことを突き放してしまう。こうして最後の砦までもが決壊してしまった青年を止めることは、もはや誰にもできないことだった。

名も知らぬ知人が命を絶ったアパートで青年が最後の殺人を犯すシーンは凄絶だ。追い詰められた女の絶叫とともに青年と知人の美しき日々が、そして彼の命を奪ったあの日の光景が激しく明滅する。このあたりは加藤泰の演出が光りに光っている。俺たち日本人もオーソン・ウェルズを、ヒッチコックをやってやろうじゃねえか!的な活力を感じた。

今更言うまでもないが、青年にとって同郷の知人は孤独の淵で出逢った唯一の同志だった。たとえ名前を知らなくとも、そこには何よりも強い連帯があった。そのように尊いものを、そうとは知らずに滅茶苦茶にしてしまった女たちに対する青年の怒りは最もなものだ。そして青年は知人の痕跡を辿るように、彼と同じ場所から飛び降り自殺を図った。忙しない都会のざわめきは、俺たちもっと早く出会っていればな、という青年の遺言さえも容赦なくかき消してしまうのだ。

雨の中、青年の墓前で千切れた指名手配書の写真を繋ぎ合わせる倍賞千恵子の悲痛な表情がいたたまれなかった。思えば倍賞千恵子はどの映画でもたいていこういう不憫な目に遭っている気がする。悲痛さにかけては他の追随を許さない女優だというのはわかるのだが、それにしても可哀想だな…

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因果

4.0罪の為に

2021年1月24日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

興奮

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近大

3.5物悲しい

ある復讐のため有閑マダムたちを次々と殺していく男。
表面だけ見ると理解しにくい繋がりの復讐なのだが、マダムたちの犯した罪の重さと男の背景を考えるとその感情が理解できてくる。
感情的で人間臭く終わり方も相まって物悲しい余韻が残る。

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美味しくって体に良いハンドソープ

4.0実質的に山田洋次と倍賞千恵子の映画

2020年3月25日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

エログロ暴力の映画ではありません
確かにそのようなシーンもありますが、それを描くことは主題ではありません
犯罪映画でも、連続殺人事件の犯人を追い詰めていく警察映画でもありません
では何なんだというと、都会の中での孤独と純粋性を描く映画とでも言うしかないのです
映像は深い陰影とローアングル、パンフォーカスを駆使したフィルムノワールの印象を与えながらえがこうとしているテーマは実はそれです
主演はもちろん佐藤允ですが、本当は倍賞千恵子なのかもしれない

監督も加藤泰ですが、実際のところ構成でクレジットされている山田洋次の映画のように感じます
映像表現だけが加藤泰の映画なのです

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あき240
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