劇場公開日 1964年1月15日

「成瀬巳喜男による加山雄三」乱れる 抹茶さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5成瀬巳喜男による加山雄三

2023年8月18日
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鑑賞方法:DVD/BD

スーパーの進出によって、存亡の危機に立たされる商店街の店々。その内の一軒の酒屋を、亡き夫の後を継いで逞しく切り盛りする礼子(高峰秀子)と、そんな礼子に密かに思いを寄せる酒屋の次男・幸司(加山雄三)の恋の物語。

終盤の電車の中でのシーンは素晴らしかった。
電車が走り抜けるカットが逐一挿入され、それに合わせて、車窓の景色も山深くなっていき、車内の幸司と礼子の物理的距離も徐々に近づいていく。視線を送って目が合うと微笑んだり、「雑誌替えて」「みかん取って」などとしきりに話しかけ、子供のように礼子に甘える幸司。
高峰秀子の芝居が、(所々で、ちょっと…と思わせる)加山雄三から子犬の様について回る年下の可愛さを引き出していて、空間移動·時間経過のスマートな処理と重層的な演出の中で、この二人だからこそ生まれたのだと思わせる独特の場が作り上げられていた。鑑賞中はもう満ち足りた気持ちになって思わず「ぼかぁ幸せだなあ」と呟いてしまった。

しかし、幸せも束の間。
有無を言わせぬ圧巻のシークエンスで物語は衝撃のエンディングになだれ込む。ラストカットは、乱れ髪の高峰秀子をアップで写し、鑑賞中ずっと疑問だったタイトルの「乱れる」の意味を即物的にサッと回収し、「終」。まるで素晴らしく手際の良い強盗にでもあったみたいにキョトン…、だった。

この作品はラスト含めやはり加山雄三こそ、だなあと思った。ちなみに加山雄三のシーンでは、所々に若大将を思わせるギターのモチーフがさり気なく(これ見よがしに)使用されていた。

抹茶