劇場公開日 1964年1月15日

「乱れるとはエロチックな言葉です」乱れる あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0乱れるとはエロチックな言葉です

2020年1月22日
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高峰秀子40歳、演じる礼子の役は37歳
加山雄三27歳、演じる幸司は25歳
劇中の会話を整理するとこうなります
19歳でお嫁に来て以来18年
夫は結婚して半年で戦死、嫁いだ酒屋も戦死公報が来た日に空襲で焼けてしまう
彼女一人が奮闘して店を再建した気丈な女性

高峰秀子の最早若くないと自覚する、女として見られる最後の時であるという、その風情が見事に出ています

加山雄三の持つ青臭い不安定さもまた演じる役にそのまま投影されて、恐るべき結末に納得感があります

本当のメロドラマとはこれです
デビッドリーン監督のメロドラマの名作逢びきに匹敵すると思います

女性であっても、大きな責任を持って仕事に没頭していれば、恋愛なんか二の次三の次で頭の中になく、気がつけば18年が経ちこの歳になってしまった
それは本作の戦争未亡人だけの話ではなく、現代では未婚の普通の女性に起こることでもあるのです

乱れるとはエロチックな言葉です
礼子の心が乱れるということなのですが、その言葉の響きどうりエロチックな心の乱れでした
一回り年下の好青年から好きだと強く言い寄られて、忘れていた女の芯が熱く燃えて理性が麻痺してしまった有り様を見事に表現している言葉だと思います

車中、礼子は幸司の寝顔をまじまじと見て泣いてしまいます
それは嫁に来たときは7歳の子供に過ぎなかった男の子を、男として見ることができるのか
抗い得ない欲求と、その解放を許さない理性の規範との胸中の戦いです

彼女はその葛藤の苦しさに泣いたのです
そして敗北したのです

何から何まで完璧な作品です
ラストシーンの高峰秀子のアップの表情にすべてが結実しています

残酷な結末は、そのこと自体の衝撃、自分から誘っておきながら愛を拒絶した自己の残酷さ、そしてそれ程までに自分を愛していたのかという驚愕
それらがない交ぜになった表情を見事に演じています
駆け寄る彼女の着物の裾もまた乱れるのです
その表情を捉えるカメラの視線も鋭いのです

二人が途中下車してバスで訪れた銀山温泉は、近頃ランプの宿として何やらインスタ映えする温泉街としてにわかに有名となっているそうです
つい先日もテレビで紹介されていて、行ってみたいと思っていた矢先でした
川を挟んだ旅館の特徴的な建物も映像に写っています
綺麗に観光地として整備されているようです
夜の光景はそれは美しいものがインスタに投稿されていました

あき240