劇場公開日 1975年9月27日

「名探偵誕生!」本陣殺人事件 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5名探偵誕生!

2021年3月9日
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鑑賞方法:VOD

悲しい

興奮

原作は横溝正史戦後最初の長編小説で、念願の本格探偵推理小説。
金田一にとっても探偵デビューとなった事件。

U-NEXTで篠田監督の『悪霊島』を見付けた時、続けて本作も発見。
思わず、ワォ!…と声が漏れてしまった。
と言うのも、本作、存在は知っていたものの、一度も見た事が無かった。
権利上の問題で長らくソフト化されなかった“幻の作品”の『悪霊島』だが、個人的にはこちらの方こそ“幻の作品”!
だから、併せて続けて見ちゃったね。

金田一最初の事件なだけあって、話も有名。
岡山県の旧本陣の末裔である一柳家で、当主・賢蔵と女学校教師・久保克子の婚礼が慎ましく開かれた。
静まり返ったその夜、鳴り響く琴の音。水車の音。庭に突き刺さった日本刀。
新郎新婦の離れに駆け付けると、二人は無惨な死体となって発見される。
現場に残された血染めの三本指。離れの周囲は雪で覆われ、足跡も無く、戸締まりもされていた。
克子の叔父、銀造は旧知の金田一を呼び、密室殺人事件に挑む…!

公開された1975年は角川金田一の前年で、ブーム直前。
一年早く、ブームに入れなかった感あるが、作品の方はなかなか良く出来ている。
原作にもほぼ忠実。
そもそも『本陣殺人事件』は話も構成もトリックも登場人物の位置付けや犯人の動機もしっかりしており、少しでも崩したら成り立たないので崩しようがないのだけれど。
スタッフの仕事ぶりが見事。
念願の映画化だったという高林陽一監督は独特の演出で横溝ミステリー世界を醸し出す。
こちらも名カメラマン・森田富士郎の映像センス、大ベテラン・西岡善信による美術。
音楽は大林宣彦! 名曲というよりかは、作品に合った印象的な音楽になっている。
また、『本陣殺人事件』は“音”も重要ポイントなので、それらにも注目…いや、“注音”。

“犬神家”ならぬ“一柳家の一族”。
恐ろしく、呪われ、そして哀しい旧家の話でもある。
とりわけこの3人。
長男、賢蔵。一族の君臨者で、完璧主義者、厳格者。演じた田村高廣にはもうちょっと威圧感出して欲しかった気もするが、原作や他の映像作品とは違う愛憎入り交じりの巧演。
次男、三郎。何処かひねくれた性格を、新田章が表している。
末の妹の鈴子。琴弾きは上手いが、知恵遅れ。時々奇妙な言動を繰り返すが、実は重要な証言。
無垢な少女である鈴子だが、高沢順子が演じた鈴子は何だか怪奇な雰囲気纏う。しかしそれがまた、刹那的でもあり、儚くもあり…。

多少厳しい意見も。
まず、舞台が戦前から現代(70年代)に。言われないと気付かないが、言われると、犯人の動機など時代感覚にズレが。
そして、最大の賛否が本作の金田一。
演じるは、中尾彬。ちなみに、『悪霊島』では殺され役だったね。
まあそれはいいとして、そのスタイル。
何と! ヒッピー風のジーンズ姿。
これが金田一…?
厳しい意見や叩いてる声も多いようだが、自分的にはそれらの声に否!
中尾彬の好演、親しみ易さは、原作の金田一像から決して逸脱していない。
横溝正史は中尾金田一を気に入ったそうな。
同意!中尾ジーンズ金田一に好感!

個人的金田一映画のBESTを順にすると…
『犬神家の一族』『悪魔の手毬唄』、野村版『八つ墓村』、その次に来てもいいくらい。

『本陣殺人事件』はTVドラマ版でも良作多い。
TVドラマ版では、古谷金田一の“横溝正史シリーズ”と“金田一耕助シリーズ”共に好き。
また、漫画家JETにより漫画化もされており(シリーズ化されていてインパクトある画!)、特にラストシーンがいい。
事件を解決し、帰りの電車の中で、金田一は恐る恐る銀造に言う。
「あの、僕、探偵になろうと思うんです…」
すると銀造は金田一の肩をポンと叩き、
「名探偵誕生だ」

レビュータイトルはこの台詞をお借りした。

近大