「滅私奉公な生き方に必ずしも賛成しませんが、映画としては面白いです」鉄道員(ぽっぽや) Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
滅私奉公な生き方に必ずしも賛成しませんが、映画としては面白いです
総合:80点
ストーリー: 70
キャスト: 90
演出: 80
ビジュアル: 70
音楽: 75
不器用だけど自分の仕事に誇りを持って取り組む鉄道員。出演者の確かな演技力、感動を無理やり呼ぼうとして過剰演出になったりしていない控えめな淡々とした物語進行など、映画として質の高さを維持している。
ただし愛する家族の死とかすら後回しで仕事を優先するというこの時代の価値観というのが、今時の人には少し理解しがたいのではないかと思います。結局そういう鉄道員は仕事はきっちりこなして社会のためには大いに貢献しているのだけれど、その分個人としての幸せを犠牲にしている。
父親の死の直前に、幼くして死んだ娘が突然幽霊になって自分の成長ぶりを見せに来て彼の生き方を肯定してくれるという、通常はあり得ない奇跡が起きる。そして仕事を優先していて死に目に会えなかった彼の娘への心残りは氷解する。
でもそのようなことが起こらない限り、人生の幸せの損失分を多少なりとも取り戻すことが出来ないのだと思うと、感動というよりもそのような人々への哀れみや悲しさを先に感じてしまう。普通の真面目に働いている人にはそのような奇跡は起きないのだから、損失の補填はなく心残りを持ったまま死んでいくわけです。そのため図らずも他のことを犠牲にしてまで仕事一筋などで生きてはいけないよ、奇跡に頼らず自分の人生の幸せの価値基準をはっきりさせなさいという教訓を教えられたように感じてしまう。
だから必ずしもこの善良なる鉄道員の生き方を素直に支持出来ないのである。こういう滅私奉公な生き方っていうのはちょっと古い日本人のもの。特に欧米人なんかだと家族ほったらかしで仕事なんかばかりするなんて、最初から理解しがたい馬鹿な男の物語というふうに切り捨てられることになるんでしょう。
とはいうものの、こういう話は日本人にはわかりやすい。彼らが個を犠牲にして日本の経済発展に大きく貢献してくれたこと。彼らのような存在があったからこそ今の日本がある。だからいい映画だとは思います。