不毛地帯のレビュー・感想・評価
全8件を表示
事実と虚実紙一重の緊迫感はスクリーンからも伝わってきましたね。
神保町シアターさんでの特集企画『生誕百年記念 小説家・山崎豊子 華麗なる映画たち』も2週目。本日は『不毛地帯』(1976)、『横堀川』(1966)の2本を鑑賞。
『不毛地帯』(1976)
小説連載中にロッキード事件、ダグラス・グラマン事件が発覚して連載と事件が併走、一部実在のモデルが特定されそうなフィクションすれすれな原作を山本薩夫監督が『白い巨塔』『華麗なる一族』に続き手がけた社会派映画。
当時は山本薩夫監督の政治的信条から独自に改変した部分が国会でも論議になるなど、事実と虚実紙一重の緊迫感はスクリーンからも伝わってきましたね。
壱岐正役仲代達矢氏は過去を背負った大本営の元作戦立案参謀中佐を感情押し殺した演技で見事演じ切りましたが、その他キャストも戦友の川又空将補役の丹波哲郎氏はじめ大門社長役の山形勲氏、専務の神山繁氏、ライバル東京商事の田宮二郎氏とベテランの重厚な演技もリアルで素晴らしいですね。特に本作の敵役でもある貝塚官房長役を演じた小沢栄太郎氏の憎々しい老獪な演技は白眉でしたね。これだけの名優、バイプレイヤーのキャスティングは今の時代なかなか想像がつきませんね。
本作は原作小説の前半部分、諸般の事情で後編は制作されませんでしたがぜひ観たかったですね。180分の長尺でしたがあっという間でした。
人間は果たして生まれ変われるのか
人間は何度でも生まれ変われると言うが
本作を観ていると、人間は同じ轍を踏み、後悔し、それが輪廻のように繰り返される。
壹岐正の人生はこれからも変わらぬだろう、知らず知らず他人を踏台にして生きていく。
悲しい人間の性だろうか?
人間は生きていくには他人を傷つけずにはいられないのかもしれない。
本当の不毛地帯とはどこか?
山本薩夫監督の作品の中でも特に傑作なのはこの4作品だと思います
1966年 白い巨塔
1974年 華麗なる一族
1975年 金環蝕
1976年 不毛地帯
社会派としての監督の作風と原作とが共振をして恐るべき傑作にまで押し上げているのです
本作は1976年公開
原作の主な舞台は1960年昭和35年です
上記に挙げた山本監督作品はどれも徹底した取材に基づく完璧な美術が特徴です
しかし、本作だけが異質です
完璧な美術は同じです
しかし明らかに作為的に手が加えてあります
それは一体何か?
実はセットも、小道具も、ロケ地も、街並みを走る自動車も、何もかも全て1960年昭和35年ではなく製作時点の1976年の現在に設定されているのです
1976年現在での完璧な美術を行っているのです!
劇中の時代も原作と同じ1960年です
その年の第1次FX選定問題を扱っています
主人公の娘には60年安保闘争についての主張の長い台詞を語らせますし、当時のニュース映像も長々とカットインされています
なのに美術はすべて1976年なのです
つまり観客を意図的にこの物語は現在の話なのだと混同させようとしているのです
この1976年はロッキード事件という、全日空の旅客機の選定に絡む汚職事件が正に進行中だったのです
これと混同させようという監督の意図であったのはあきらかでしょう
山崎豊子の原作には無い踏み込んだ汚職シーンまで入れようとして問題まで起こっています
つまり山本薩夫監督らしい強い左翼的な思想信条に基づいたメッセージを込められているということです
結果として監督は続編を撮ることは、出来なかったのです
しかし本作から44年もの年月が経ち本作を21世紀の視点から観るなら、皮肉なことに監督の意図とは違って見えてくるのです
不毛地帯
それは極寒のシベリアの抑留地でも、熾烈を極めた次期戦闘機商戦の事でもないのです
それは国防という、国民の生命と財産、国家と民族の自立と独立を担保する最重要な事柄が、利権争いによって正しい政策判断がねじ曲げられようとしている日本の現状
それが不毛地帯なのです
ロッキードF-104はその時点に於ける最高の選択であったのは間違い無かったのです
主人公の壱岐正がなぜ当初の希望を忘れ次期戦闘機商戦に没頭したのか?
単に川又への友情?
そんなことで信条を変えるような男では有りません
彼は国防という最も重要なことが蔑ろにされていることに我慢ならなかったのです
大本営作戦課参謀という立場で、国を誤らせ、兵を死なし、民間人に艱難辛苦を舐めさせた責任を取ろうとしていたのです
間違った戦闘機を選定させるということは、彼に取ってまた同じ間違いを繰り返すことだったのです
だから必死にロッキードを推したのです
川又の友情の為でも、会社の為でもないのです
このような不毛地帯にある国民を守るのだ
それが彼のモチベーションだったのです
それが21世紀の現代に本作を観ると、この共産党員の監督が撮った作品であるのに、このような監督の意図と真逆のメッセージが伝わってくるのです
山崎豊子の原作の凄さなのでしょう
それが突き抜けてくるのです
本作の2年後にはF-15イーグル選定に絡む、ロッキードグラマン事件が起きます
全く本作の再現のような事件です
しかしそのイーグルも最高の傑作機で、航空自衛隊は最良の選択をしました
だから米ソ冷戦の最前線で日本は戦争を防ぐことが出来たのです
駄目な戦闘機だったなら、戦争を呼び寄せていたことでしょう
その後継機もまた大変に揉めて、ようやく最新鋭戦闘機のF-35の大量購入が始まり、F-3という国産ステルス戦闘機の開発が決まったところです
戦闘機は恐ろしく高額な兵器です
しかも大量に必要です
莫大な予算になります
それだけ国防にとり重要不可欠なものだということです
これを軽視したり、利権争いの道具にして使えないものを導入したりしたら日本は一体どうなるのでしょう?
それが不毛地帯なのです
果てしなき商戦は不毛の地のように虚しく
『華麗なる一族』に続き、山本薩夫監督が山崎豊子の小説を映画化した1976年の作品。主演も仲代達矢。
こちらも後年、唐沢寿明主演でTVドラマ化された。
元大本営参謀であった壹岐はシベリア抑留11年を経て帰国後、総合商社の近畿商事から誘いを受ける。
軍人時代の手腕を買われての事だったが、近畿商事が扱うのは…
空自への戦闘機選定。
より優れた戦闘機を巡り、各商社、自衛隊、財政界が繰り広げる策略、癒着、暗部…。
日本は戦争を永久放棄したのではなかったのか…?
何の為の戦闘機選定なのか? 防衛? それとも…?
壹岐自身も戦争や決して誰にも語らぬシベリア抑留を身を持って経験した。
が、一軍人として、商社マンとして、今度は熾烈な“商戦”にのめり込んでいく。
周りに敵を作り、対立し、時には家族と衝突しながら。
人のエゴや欲渦巻く絵図ながら、それはまるで不毛の地のように虚しく…。
そんな“不毛地帯”の果てに、壹岐が辿り見たもの、失ったもの…。
共演に丹波哲郎、田宮二郎、山形勲、八千草薫らこちらもそうそうたる面子。
アメリカロケも行い、山本監督のダイナミックな演出は言うまでもなく、スケールも見応えも充分の山本×山崎社会派エンタメ大作。
…しかし、
作品の面白さも充分だが、本作は色々物議を呼んだ“問題点”こそ話題かも。
製作中にかのロッキード事件が起こり、特定のモデルは無いにせよ、その類似点が大いに問題に。
原作では壹岐のシベリア抑留エピソードが多く描かれているらしいが、映画ではかなり省略され、山本監督の意向で戦闘機選定の商戦メインに。
これにクレームを付けたのが、原作者の山崎。
作品の見解の違いを巡って、山本と山崎は初めて対立。
そのせいか、山本が山崎の作品を手掛けるのはこれが最後となった。
製作中まだ原作は連載中で、映画化は前半のみ。
その為、ある人物の死をクライマックスに持ってきて、一見劇的に纏まっているように見えて、少々途中な印象も。
後半部分の映画化企画も上がったらしいが…、実現しなかった事が残念。
後半部分は自動車や石油産業への介入、近畿商事を勇退した壹岐が選んだ第3の人生が描かれているそうで、こちらも是非見たかった。
●こうして高度成長期が。
防衛庁の戦闘機選定にあたって、政治が露骨に介入する。
元大本営参謀の壱岐は、抜群の政治力でこれをモノにしようとする。
自衛隊と商社と、それぞれの立場から情報戦を繰り広げる。
やがて警察の手も回るまでに。
友情と会社の事情とで、新たな経済戦争の現実が立ちはだかる。
しかし、みな若い。
もうこれ以上、入ってきませんよ
映画「不毛地帯」(山本薩夫監督)から。
一番最初に目に入ってきた文字が「昭和33年冬」。
私の生まれた年であり、伊豆は狩野川台風で大被害を受けていた年、
そんなリアル感で観ていたが、敗戦から13年後は、
もうこんなに復興していたのか、とやや驚きの感想を持った。
また3時間に及ぶ上映時間にしては、やや中途半端な終わり方だな、と
原作を調べたら、映画は前半部分を纏めたに過ぎないらしい。
物語は「二次防の主力戦闘機買い付けに暗躍する商社と
それらと癒着する政財界の黒い断面を描く」展開に、
ほとんど実名に近い「ラッキード社」「実弾」(チョコレート)など、
当時の世相を色濃く反映しているな、と苦笑いをした。
あまり目立たないシーンであったが、ソ連(?)の飛行機が、
北海道の北側から、領空侵犯して、警告音が鳴り響いたとき、
「もうこれ以上、入ってきませんよ」と冷静に判断した会話があった。
本当に戦いを挑むのではなく、わざわざ領空侵犯をして、
日本の自衛隊が、どこから、どのくらいの時間で対応するか、
言い換えれば「日本の防衛力を試すため」の試みと知って、
なるほど・・と頷いた。
最近では空だけでなく、海でも同じようなことが起きている。
近隣国によりしつこく繰り返される領空、領海侵犯には、
いち早く対応し、日本の防衛力を示しておく必要があるな、と感じた。
商社での受注合戦の裏側の描き方は面白いが
総合70点 ( ストーリー:75点|キャスト:65点|演出:65点|ビジュアル:65点|音楽:60点 )
「この映画の主人公および登場人物、その他いっさいに特定のモデルはありません」という白々しい字幕から始まるが、実在の総合商社の次期戦闘機の受注合戦を描いていて、「特定のモデル」はわかりやすい。商社と航空機製造会社と政治家と防衛庁が登場し、情報収集に裏工作と権謀渦巻く受注合戦の裏側がよく調べられている。その過程であるものは潰されていき、あるものは生き残り成功し、厳しい競争を浮かび上がらせる。
だが登場人物が多くて顔と名前と立場を把握するのが大変だった。原作は大作らしいので致し方ないが、解説を読みながらじゃないとついていけなかった。それとシベリアの話に次期戦闘機の話が出てきたが、主人公の壱岐の話としては物語の流れがどちらも中途半端。シベリアでは苦労したんだなとはわかるがそれは本筋の戦闘機の話とは殆ど関係ないし、主人公の今後を考えると戦闘機の話の終わり方も一つの仕事の終わりにしか思えず、すぐに次の話がありそうな締めくくりになっている。実際、調べてみると原作はこのあとの話が続くようで、この一作だけを観ると簡潔したという気にならなくて物足りなさを覚える。社会派作品としての面白さがある一方で、壱岐という一人の男の半生を描くにしては不完全があった。映像・演技にも古さがある。
面白いけど、不毛なんだよな~。
テレビの山本薩夫監督特集で見ました。
原作は読んでないし、テレビドラマも見てませんが、すごく面白いし、勉強になりました。
よくぞこの題材を、ここまでエンターテイメントにしたと、拍手したいくらいなんですが、やっぱり不毛地帯だけに、見た後はむなしさが残ります。
商社による、戦闘機の受注合戦の話なんだけど、すごい現実感があって、まったくの作り話とは思えません。
そこがいいところではあるんだけど、悪いところでもある。
現実的すぎて、後味が悪い。
実弾(現金の賄賂)は飛び交うわ、他社の見積もりは盗むわ、密告で相手の足は引っ張るわ、さもさりなんという醜い戦い。
その結果、ラッキード社だかグラント社だか知らないが、どちらに決まろうが、数百億円のお金がかかる。
いるかいらないか?と言われれば、某国の領空侵犯に対抗するためにいるのだろうけど、日本の上空の制空権は実質アメリカが持っているのだし、実戦で使う確率はほとんどない。
日本の法律では、先制攻撃はできないから、他国より使い道は大幅に限定される。
さらに武器の輸出は禁止されているから、技術を取り入れて、国産化して、輸出というわけにもいかない。
古くなったら、また、たいへんなお金を払って、アメリカから買うしかない。
その間も、莫大な維持費がかかる。
それが全部国民の税金かと思うと、ほとんど関係ない雲の上の話で、どうしようもないんだけど、どう考えてももったいない。
抑止力という三文字の、訳のわからない言葉だけではとても納得できない。
シベリアにかけてるんだろうけど、比べられたらシベリア怒るよ。
シベリアだって木はたくさんはえていて、地球の空気をきれいにしているし、資源だってある。
日本の自衛隊の戦闘機とは比べようがない。
こんな不毛なことばかりやってたら、戦う前に負けるよ普通・・・・?
全8件を表示