ふたり(1991)のレビュー・感想・評価
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死者
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私の父親が大林監督の尾道3部作が大好きだったので、子供の時の映画の記憶で思い出すのは大林作品が多いです。今作も約30年振りの再鑑賞となりました。
大林監督が亡くなられた時に町山智浩さんが、「大林作品には幽霊が良く出てきますが、この幽霊は戦争で亡くなった人達のことです。彼らが過ごせなかった青春、人生を映画の中で描いているのです」みたいな事を話していたのを聞いて、直ぐに今作を思い出しました。
そんな『死者』に対する大林監督の想いを知ってから今作を改めて鑑賞すると、千津子の事故死がとても不条理に感じました。最も、『死』そのものは不条理なものですが、あの時間あの場所に居なければ死ななくても済んだ千津子と戦争の時代に日本に生まれなかったら死ななくて済んだ若く幼い命が重なって見えました。そして本来であれば一緒に過ごせたであろう人生が、幻の中にしかない。
死者が生きる者に寄り添い見守るというストーリーは数々の映画で描かれてきましたが、死者が見守ってくれていると思うのは、生き残った者の勝手な願望です。
実加が成長して自立出来たのも、幽霊である千津子のおかげですが、いつかは現実を受け入れて前に進まなければいけません。だからこその別れだと思いました。
大林監督自身の創作の源が、戦争で亡くなった死者であることは明らかですし、戦争を経験した創作者は誰もが例外なく心の中にあの戦争がある。再鑑賞してそんなことに気づかされました。
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