「大林監督、名作を遺してくださりありがとうございました」ふたり(1991) あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
大林監督、名作を遺してくださりありがとうございました
尾道三部作
1982年 転校生 小林聡美
1983年 時をかける少女 原田知世
1985年 さびしんぼう 富田靖子
新尾道三部作
1991年 本作 石田ひかり
1995年 あした 高橋かおり
1999年 あの、夏の日 宮崎あおい
美しい尾道の街並みの光景
貧血気味のような石田ひかりの得難いキャラクター
哀愁たっぷりの主題歌のトーン
その三つが本作を支配しています
実加が成長し自己を確立していく物語です
だから実加が自主性を見失い掛けたときにピエロは不気味に笑うのです
母を嘘の電話で精神にダメージを与えた万里子をその事を知って彼女を平手打ちしたとき彼女は自己をしっかりと確立したのです
ラストシーン
高校の制服を着て坂道を登ってくるのは妹実加
そして事故現場を行き過ぎて去っていく後ろ姿は姉の千津子です
そこに本作のテーマは凝縮されています
実加はついに姉の影から自立し、統合されてふたりでひとりとなったのです
むしろ吸収したというべきかもしれません
エンドロールに流れる主題歌には情感が溢れて涙もまた溢れました
大林監督自らの歌唱は実はナレーションなのです
素人歌唱だからこそ胸に染みいるのです
そして本当に超久しぶりに観て、父親と母親、父親と小樽から来た女性、の二つのふたりにも感情移入している自分に驚いています
ふたりとは死別した姉妹のふたりだけでなく
父親と母親、父親と愛人のそれぞれのふたり
北尾実加と友人の柴山智加が演じる長谷部真子のふたり
さらには尾美としのりの演じる神永智也 と北尾実加のふたり
様々なふたりが描かれていることに気が付きます
北尾実加の成長に伴って人間の関係性の見晴らしが高くなって行くのです
だから神永智也との別れは港の見える高台だったのです
今更ながらに監督の演出の凄さに驚嘆しました
大林監督、名作を遺してくださりありがとうございました
コロナ禍が収まっていたならば、10月27日の千津子の命日の頃、尾道に行きたくなりました