劇場公開日 1958年9月7日

「本当のヒロインは田中絹代です」彼岸花 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0本当のヒロインは田中絹代です

2019年12月19日
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鑑賞方法:DVD/BD

4人の若い娘が登場しますが、実のところ本当のヒロインは田中絹代です
彼女は実年齢49歳、母親役ですが、それでも彼女が一番長く登場し、一番多くカメラのアップを受けます

そのチャーミングなこと、そして美しいこと、可愛らしいこと
若い美女達をものともしません

監督もカメラも彼女を美しく捉える事に全身全霊をかけていることがひしひしと伝わってきます

序盤の結婚披露宴での夫の祝辞の言葉の中で、自分達夫婦には恋愛もなくとか卑下した時に、彼女が見せる微かな笑顔で、それを否定してみせるなんとチャーミングなこと!

そして披露宴が終わって夫が友人達と飲んで帰って来てからの彼女が甲斐甲斐しく夫の衣服などを片付けたり整えたりとチョコマカとする動きを画面の中に延々と捉え続けるカメラの視線は恋人を追う視線のようですらあります

小柄で控えめで、それでいて妻として母親として毅然と夫に意見もする

頑固で感情表現の不器用な夫の本当の心情の理解の深さ、夫のコントロールの手綱さばきの見事さを、素晴らしい演技とカメラで、理想の妻の姿を具現化してみせています

山本富士子も浪花千栄子も生まれは大阪ですが、それぞれ高校だったり、女給で働いたところが共に京都で、本当の流れるような京都弁を話しています
いくら方言指導してもネイティブには直ぐに分かります
というか現代ではネイティブですら、このような本当の京都弁は話せなくなってしまっています
本当の京都弁を久方ぶりに聞いて本当に懐かしく、嬉しくなりました

配役においてこの二人の役は、この本当の京都弁を話せるか否かで決まったものだと思います
他にいないのだから、例え大映の女優であっても配役するほかなかったのです
それは小道具に本物の美術品を使って撮る姿勢と同じことなのです
この二人の登場シーンは、特にコミカルで愉快で楽しいものでした

本作は小津作品初のカラー撮影作品です
白黒でなければという監督もおられる中で、本作はカラーでも全く違和感はありません
しかも単に色が付いただけではなく、カラー撮影になってよりクォリティーが増しているのです

色温度が低めの暖色系の色調のアグファカラーのフィルムに、一種独特のレンズの味が合わさって、えもいえない格調ある写真になっているのです

そして要所のシーンにアクセントとしておかれる赤い小道具の数々の使い方
ため息がでます

けれども題名の彼岸花も赤い花ですが、それは劇中には登場しません
赤い小道具が、彼岸花を代わって象徴しているのだと思います

花言葉は情熱、独立、あきらめ、思うはあなた一人、また会う日を楽しみに、とあります
その花言葉に本作の内容が込められているのです

そして夏の終わりから秋にかけて咲く花でもあります
娘は巣立ち、親は歳を取っていくのを実感するのです
それが蒲郡でのクラス会の翌朝シーンの台詞とつながっているのです

クラス会の夜の詩吟の内容は、叛逆者を討つ為に決起したものの結局敗れてしまう武将のことです
つまり親は子供には勝てないということなのです

素晴らしい傑作です

あき240
talismanさんのコメント
2021年8月28日

あき240さんのレビューに100万回の共感です!

talisman