「さあ観念しろッッ!」晩春 kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
さあ観念しろッッ!
小津安二郎初体験。果たして世界に冠たる小津映画はどんなものかとワクワクして本作を鑑賞しました。
感想は、面白かったけどあまりハマらず。でも、もしかすると過剰なファザコンを描いた本作が小津映画の中でも異質で、東京物語とか観たらまた違う感想を持つような気がします。
主人公・紀子はちょっとキてますね。はじめは朗らかで魅力的に思えたのですが、父の再婚話での異常な嫉妬を剥き出しにする姿を見てドン引き。よくよく見ると紀子は他者の気持ちを慮るシーンはほぼなく、喜怒哀楽も垂れ流しでコントロールが効いていない。
おそらく彼女はすごく幼いんですよね。精神的には年中〜年長さんってとこ。父への過剰な執着は「大すきなパパとずーっといっしょにいたい!」って感じです。幼稚園児ならそう考えるのは当たり前です。途中で紀子を成人女性としてではなく幼稚園児として観ると、違和感がなくなりました。
しかも、紀子は父親以外から影響を受けないため、クライマックスまで成長しません。この閉じられた感じもヤバいですね。日本の伝統的な闇を感じます。
そんな27歳児も逃れられない運命がありまして、それが強制結婚です。価値観の多様性・自己決定権が重視される現在とは違い、当時は周囲が一丸となって「結婚シロー!」と圧力をかけてきます。
これは、ある意味よくできているかも、なんて感じました。おそらく舞台が現在ならば、紀子は父子密着のままずっと行ったと思います。周囲の圧力もそこまでないだろうし、父親も優しいから踏ん切りつかなそうだし。
でも、強制結婚は強引に父子を引き剥がします。しかもそれは個人の意思とかでなんとかならない社会システムによるものなので、紀子も心の奥底ではいつかこの日が来ることを覚悟していたと思います。なので、父親の渾身の説得を受け止め、観念できたのだと思います。観念できたってのは、成長ですからね。
とはいえ、この強制的な分離はトラウマ体験にもなり得るので、新郎の熊太郎さんが良い人でないと紀子のメンタルはブレイクダウンして毒親化し、世代を超えて呪いが引き継がれていくでしょう。
…やっぱり野蛮でヤバいですね。しかも小津は独身だったので、強制されるのは女性のみだったのかも。うーん。
作風としては、元祖オフビートギャグが面白くて、結構笑えました。杉村春子が財布を拾ってネコババしようとしたときに警察が見切れてくるとか、ニヤリとしました。笠智衆のリフレインギャグもなかなか。この辺はジムジャーっぽさを感じました(小津ちゃんが影響を与えてるんだけどね)。
原節子のバタくさい美しさには絶句。すっかりファンになりました。
気になったのは、終幕近くで笠智衆に対して月丘夢路が「遊びに行くわ、チュっ☆」みたいなシーンがあり、なんか中年男のドリームって感じがして本作の中でも浮いているように思いました。もしかすると21世紀ハーレムアニメの源流も小津ちゃんにあるのか、なんて邪知してます。