「揺れる気持ちの後で」晩春 Takehiroさんの映画レビュー(感想・評価)
揺れる気持ちの後で
小津安二郎映画の別のも考えたが、そちらは、貧困で人妻が身体を売るという話で、(私は当然否定する立場だが)今朝の気分では重い感じがして、『晩春』のほうにした。映画も2時間前後あったりするので、休日に1本観ようとするのも、他の事も計画しているとなると、大変な贅沢でもある。早朝5時すぎから7時には観終えようと観始めた。ネット時代でもあるし、調べて書くか、調べないで書くかというので違っても来るのだが、昭和24年というと、戦争終結後4年。このタイミングの時代はどういう感じだったのか。オープニングは多くの女性たちが集まっての茶会で、穏やかな雰囲気で進行している。流れている音楽が現在の映画ではあり得ないだろうという感覚である。DVDで観始めたが、どうも一度観てはいたかも知れない。だが、ほとんど忘れてしまっている。鎌倉が舞台のモノクロ。たしか下から撮るのも特徴だったか。父の威厳はあるのだがソフトである。家族制度は今より当然しっかりしていた時代だろうが、決して父が威張り散らしていただけの家庭では無かったのは記録されているだろう。だいたい家族制度を悪く言う人は、その人の両親とうまく愛情関係が持てなかった個別の体験を復讐のように社会に浴びせるようなものだと私は思っている。愛情ある家庭は喧嘩はあるにせよ、誰かが誰かを看取るまで続くし、そのほうが人間らしいに決まっている。(こうなった時代からは介護施設との関係という問題もあるが)◆やはり一度観てはいる。忘れていたのだが、薄っすらと場面場面がほんの少しずつ想起はされる。しかしどう終えるのかもまったく覚えていない。おじさんと語るシーンがあるが、おじさんの再婚を、笑いながらもなんだか不潔だわと言うような、主人公の女性の感性が、現在の女性にはわからなくなった貞操観なのだろう。ここに現在の問題へのヒントがあるはずだ。主人公、紀子は父娘の家庭らしい。おそらく父は妻に先立たれている。作家らしい。(調べたら大学教授だったか)◆昭和24年当時は親子親戚の関係がしっかりしていた事もあり、紀子の叔母さんだろう、見合いの一歩前のような話を持ち出すが、紀子の懸念は父が一人暮らしになってしまうのではないかという危惧だった。現在の女性たちとは結婚に迷う気持ちの選択面から違っている。紀子は再婚が汚いと考える貞操観があるくらいなので、父親に叔母からの再婚話があると複雑な心境になる。とても不器用な時代教育の生んだ感性だが、一面凛とした女性というのはこういう感性で作られていたのではないか。男性にも妾を作っているような男性ばかりでは無かった。誠実な父娘である。なぜ揺らぎ乱れた家族出身者の言論のほうが優位に立たせた時代推移をしたのだろう。◆(ただ原作者の広津和郎は何人も愛人や妻を替えた人物だったらしく、小津安二郎は結婚しなかったようなのだが、そこら辺の原作者と映画監督の境遇、思考からのせめぎ合いがあったか。もちろん、私が観ているのは映画のほうだから、小津の感性のほうに変えられているほうがインプットされているはずだ。◆現在の女性達が結婚しないのと、この映画で紀子が父親が心配だからという理由と、どこが違うのかもヒントか。映画では、父が再婚すると語ったために、紀子がショックを受ける。(紀子を嫁に行かせたい父の噓だったのか?)現在では、母娘との癒着を指摘する話は幾つか出ているようだが、現在風のこの視点は一体何か?美的には、父娘とのコンプレックスのほうが、母娘とのコンプレックスよりも美的な気はする。◆いずれにせよ、心配してくれて見合いを持ってくるおじおばのような関係性も貴重だった。◆ただ、紀子もいざ見合いをしてみると、心理が急転して、相手に対して悪くもない印象を親戚で同級生なのか、その女性に語る。その女性が語るには、もじもじして好きな人に告白も出来ないあなたみたいな人は見合いが似合ってんのよ。みたいなセリフがある。見合いという選択は大事だったのだ。恋愛結婚至上主義のような偏りが現在の不幸を生んでいる。婚活にしても恋愛色が強い方法だ。ピンポイントで紹介で覚悟を持っている感じが大切だと思う。◆父娘家庭ゆえだが、父娘とで一緒の寝室で寝ているシーンがあるが、ここが現在の人達にはわからなくなった面だとも思う。俗に言うツッコミどころというわけだろう。ここを考察するところにヒントがあるかも知れない。(これは、娘の結婚を機に、記念に父娘と京都に旅行に行ったシーンか)◆これはマザーコンプレックスに対するファザーコンプレックスとだけ科学のように単純化してしまうと考えにならない。◆笠智衆さんが演じた父親はこの時56歳。「結婚してすぐ幸福にはならない。幸福を作り上げていくところに結婚の幸福が生まれる。そしてはじめて本当の夫婦になれるんだよ。」◆なぜこの映画が作られた昭和24年から、家庭を家族を夫婦を日本は壊す方向を取っていったのだろうか。◆紀子が嫁いでから、痩せ我慢していた父親の寂しい気持ちが描写されて映画が終わる。
とても熱のこもったレビュー、作品に興味が湧きました。
小津監督作品はそんなに観ていないのですが、東京物語はとても良かったです。秋刀魚の味も、時代感が伝わって印象的でした。
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ネタバレありなのに、ネタバレなしで間違えてアップしてしまい、修正の仕方がわかりません。ネタバレしていても、この映画は良い映画です。申し訳ありませんでした。