劇場公開日 1942年12月8日

「21世紀の現代においては、第一級の反戦映画になっているように思える」ハワイ・マレー沖海戦 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.021世紀の現代においては、第一級の反戦映画になっているように思える

2019年12月18日
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鑑賞方法:DVD/BD

戦争プロガパンダ映画といえばそれまで
ディズニーだって戦意高揚映画を撮っている
どこの国だって同じことだ

本作が有名なのは特撮による海戦シーンが円谷英二の名を世間に轟かせたことだ
ゴジラで世界的に彼の名前は有名になるが、その技術はほとんどもうこの時代に開発されていたことに気づかされるだろう

本作には美術に円谷にまねかれて東宝に入社した渡辺明が参加したことでも有名
以後、渡辺明は円谷のもとで特撮美術の縁の下の力持ちとなる
実物大の空母の飛行甲板と艦橋のセットを使った撮影の見事さは彼の功績だろう
海軍省の肝いりにも関わらず、撮影には軍事秘密として全く協力を得られず手探りでここまでの美術セットを作り上げたのだから見事なものだ

後年のトラ!トラ!トラ!でオマージュされているシーンも多いことに気づかされもするだろう

とはいえ本作の前半は特撮なしのドラマパートだ
ハワイマレー沖海戦において活躍したパイロット達は、どのようなベストオブベストの若者達だったのか、いかに苦しい訓練を耐え抜いて育成されてきたのかを延々と見せることに半分の時間を割いている
17歳の初々しい原節子の娘振りも観ることができる

後半の半分は攻撃準備に明け暮れる日々を描き、海戦シーンは残りの30分に満たない分量しかない

少し物足りないのは確かだが、記録映像、実物大セット、そして特撮
これらが見事に融合して高い効果をもたらしているのは確かだ

そして戦意高揚のプロガパンダ映画
21世紀の我々の目からみれば痛々しいばかりだが、当時は当然のことながら至ってまじめそのもの
真剣にこのようなベストの人材が高いプライドを持って、全身全霊で戦争に打ち込んでいたのだ
そこにはプロガパンダではない真実がある

それゆえに、それでも勝てなかった、その衝撃の強さを感じる事ができる
時の運でも、戦意の不足でも、訓練の不足でも無い
兵器のレベルも開戦当初は世界最高レベルであったのだ
このような優れた人材を総て戦争につぎ込み、猛烈な訓練を経ても敗戦した、その衝撃の大きさが改めて本作を観ることで伝わってきた
戦火で焼け野原になって放心状態になっただけではない、自信喪失といったものを感じることができるのだ

それゆえに21世紀の現代においては、本作は第一級の反戦映画になっているようにすら思えた

山本嘉次郎監督、円谷英二特撮の戦中に於ける戦意高揚映画は本作の他にあと2作
1944年3月公開の「加藤隼戦闘隊」と同年12月公開の「雷撃隊出動」だ
何故か映画.com にはエントリがなくレビューを書けないのでこちらに記す

前者は陸軍の全面協力で実物の戦闘機や爆撃機、果ては鹵獲した敵機まで実際に飛ばして空中撮影までしている
後者もレイテ沖海戦で沈む直前の本物の空母瑞鶴から本物の九七艦攻が発艦するシーンを始め本物ばかりが登場する
どちらも特撮も素晴らしい
前者には助監督には本多猪四郎の名前もある
併せて観て欲しいと思う

単に戦意高揚映画と切って捨てられない戦争映画としてのクォリティーがある
特に後者は敗色濃厚な戦況を隠そうともしていない
本作製作の1944年11月時点では、もう日本海軍には艦隊戦力は壊滅していたのだ
もう特攻しかないのだというメッセージを放っており悲壮感すら漂っている
そういう意味での戦意高揚映画になっている

山本嘉次郎監督はその中で、米軍捕虜の口を借りて日本に勝つ道理が無いと語らせている
しかも大東亜共栄圏すら南洋の小島の例としてそもそも彼らはそれを望んでいないことまで暴露している
反戦映画といってよい
見事に検閲をかいくぐってみせたのだ

あき240