「戦意発揚映画の功罪に思い馳せ⋯」ハワイ・マレー沖海戦 しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
戦意発揚映画の功罪に思い馳せ⋯
DVDで2回目の鑑賞。
年少兵が厳しい訓練を経、立派な飛行兵となるまでが主な筋だ。かなり淡々とした話運びで、正直少し退屈した。軍隊内の生活も美化されているように思える。頻りに登場する精神論もバカバカしい。
だが、本作を観た当時の少年たちの中には主人公の姿に胸踊らせ、自らも神州日本の勝利を望み天皇陛下の御為に戦おうと固く決心した人もいただろうと想像する。国威発揚映画とはなんとも罪深い。
本作が公開された時期は、6月にミッドウェー海戦での大敗北、8月にはアメリカ軍がガダルカナル島に上陸と、戦局が次第に日本にとって不利な状況に傾きつつあり、連戦連敗、泥沼の消耗戦に片足を突っ込んでいた。大本営発表は偽りの戦勝ばかり報じていただろうし、このタイミングだからこそ、国威高揚が急務だったのかもしれない。
どの国も戦意高揚を目的とした国策映画を製作していたことに変わりはないが、繰り返しになるが、こう云った作品のなんと罪深いことだろうか。悲劇の足音は刻々と近づいて来ており、本作で描かれたような綺麗事は実際の戦場には存在し得ず、多くの尊い命が失われていくことになるのである。その中には本作の影響で飛行兵を志願した人もいたかもしれないと思うと、強い怒りが湧いた。
本作が当時の戦意高揚映画中で傑作の誉れ高い理由とは、やはり円谷英二特技監督による特撮シーンが出色の出来映えだったこともあるだろう。
真珠湾攻撃シーンはあまりにも有名だ。軍から情報提供が無かったため、攻撃時の模様を撮影した写真の波の高さを元に、周辺の寸法を計測して再現された真珠湾周辺のセットはとてもリアル。
精緻過ぎたが故、戦争終結後にGHQが真珠湾攻撃の記録映像と誤解したと云うエピソードが示す通り、円谷特技監督の特撮のクォリティの高さを証明し、後の活躍へと繋がる出世作となった。
それだけに、複雑な心境になった。戦争が技術面でも文化面でも、文明の進歩の一要因となって来たのは紛れも無い事実であり、そのことについて改めて考えさせられたわけである。戦意高揚映画の功罪に思いを馳せつつ、筆を置こうと思う。
[レビュー(2022/08/14)]
「加藤隼戦闘隊【4Kデジタルリマスター版】」を鑑賞した感想をこちらに記す(映画ドットコムに同作のページが見当たらないためである)。
豪放磊落な加藤部隊長役の藤田進の演技が素晴らしかった。陸軍省後援なだけあって零戦の実際の映像が使用されているだけでなく、鹵獲機を使って撮影された空中戦シーンもあり、史料的な価値が非常に高い。円谷英二特技監督が手掛けた特撮シーンも良い。実写と組み合わせた迫力に魅せられた。
[鑑賞記録]
2019/08/12:DVD
2022/08/14:日本映画専門チャンネル(4K版)
2025/12/07:Blu-ray(4K版)
*修正(2025/12/07)
