「ケーン、カムバック!」遙かなる山の呼び声 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ケーン、カムバック!
『幸福の黄色いハンカチ』に続く山田洋次監督と高倉健のタッグ作。
かの名作の二匹目の…では決してない!
こちらもこちらで、これまた素晴らしい名作!
北海道。
夫を亡くし、女手一つで牧場を切り盛りする女性と、その幼い息子。
ある日、素性の知れぬ男がふらりと現れ、牧場を手伝う事になる。
真面目で実直な男と深まる交流。が、男は自分の事は何一つ語らない。
男は、ある秘密を抱えていた…。
話はよくあると言うか、予定調和。
しかし、語り口も展開も作風も、何もかも心地よい。
まずは高倉健のカッコよさが最高なまでに引き出されている。
本当に高倉健の為の役。
口数は少ないが、頼りがいがあって、働き者で、腕っぷしも強い。何か陰もあり…。
惚れるのも無理は無い。と言うより、男が惚れる漢。
倍賞千恵子も愚兄の妹を離れると、女のいい魅力を発揮する。
仄かに惹かれ合っていく二人の恋慕が、ドラマのメイン。
ハナ肇の役も最初はヤな野郎だが、ひと度分かり合えば、ちょいとウザいが、いい奴。ラストシーンに座布団十枚!
武田鉄矢の出演は『幸福の黄色いハンカチ』からの繋がりでご愛敬という事で。
また、幼き吉岡秀隆が巧く、彼演じる少年と男との擬似父子関係も実にいい。
父親を亡くし、あまり父の温もりは知らない。
母親との仲はいいが、それでも女親では開けない心の扉もある。
自然と男には開いた扉。
素性は知れぬが、まだ幼くても分かるのだろう。このおじさんが、大好きだという事が。
男も少年が可愛くて堪らないのは見てれば伝わってくる。
本当の父子のような二人の交流が微笑ましい。
本作のもう一つの…いや、真の主役は、“北海道”と言っても過言ではないだろう。
あの雄大な緑の大地、青い空と雲、地平線上の夕陽…。
北海道の大自然をこれでもか!…と、余す所無く映し出している。
日本にもこんな風景があり、こんな映像を撮れるとは…。
本当に憧れる。
話的にも風景的にも、アクション・シーンは無いが、西部劇のようなドラマを描きたかったのは明白。(話のベースは『シェーン』だろう)
高倉健が大地を馬に乗って駆るシーンなんてまさしく。(そりゃあ、スローで撮りたくなるわ)
山田洋次の溢れんばかりの西部劇への憧れと慕情。
佐藤勝の音楽も素晴らしい。
男は、殺人犯だった。
かといって、凶悪犯では決してなく、人を殺めてしまった事は許されないが、充分同情の余地はある。
ここで暮らした短い思い出を心の糧にし、男は捕まる。
ラストシーンが秀逸。
警察と共に乗った電車に、仄かに想いを寄せ合った女が突然乗ってきて、ある話が聞こえてくる。
女は息子と共にあの牧場で、“夫”の帰りを待つという。
男は必ず、帰ってくる。