「世紀の問題作、25周年記念で再上映」バトル・ロワイアル 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
世紀の問題作、25周年記念で再上映
製作25周年記念再上映にて。
【イントロダクション】
高見広春による同名原作小説を、『仁義なき戦い』シリーズの深作欣二監督により映画化。脚本は、監督の息子・深作健太が手掛けた。
出演は藤原竜也、前田亜希、山本太郎、安藤政信、栗山千明、柴咲コウ、ビートたけしら。
【ストーリー】
新世紀のはじめ、ひとつの国が壊れた。経済的危機により完全失業率15%、失業者1,000万人を突破。自信を失くし、子供達を恐れた大人達は、やがてある法案を可決した。
「新世紀教育改革法」“通称:BR法/バトル・ロワイアル”。
年に一度、全国の中学3年生の中から選ばれた1クラスに、コンピュータ管理された脱出不可能な無人島で、制限時間3日間の殺し合いを強いるという法律である。生き残れるのは、最後の1人となった優勝者のみで、制限時間内に決着がつかなかった場合は、首にはめられた小型爆弾で全員が殺処分される。
今回の参加校は、香川県城岩学園中学3年B組。生徒達は修学旅行だと騙されてバスに乗車。催眠ガスで眠らされ、無人島に拉致された。廃校となった木造校舎の教室で目を覚ました生徒達。彼らの前に、B組の生徒達が1年生の時に担任を務め、生徒の1人である国信慶時にナイフで切られて以降休職していたはずのキタノが軍人達と共に現れる。
「今日は皆さんに、ちょっと殺し合いをしてもらいます」
事態を飲み込めず、生徒達が混乱する中、キタノはビデオでのルール説明を開始する。見せしめとして国信と女生徒が犠牲となり、教室は完全にパニックに陥る。
やがて、全てのルール説明が終わると、生徒達にサバイバル生活で使用するバッグが支給される。その中には、水と食料、地図、コンパス、懐中電灯、そしてランダム支給の武器が入っている。また、島には1日数回、時間毎に禁止エリアが指定され、時間内に脱出出来なかった生徒も爆弾で処分されるという。
出席番号順に次々と生徒達が呼び出され、修学旅行用にと持ってきた私物と、支給バッグを手に島に散って行く。
主人公・七原秋也は、死んだ国信が密かに想いを寄せていた中川典子を守る為、転校生の川田章吾と協力して、島からの脱出を目指す。
生き残る為に他人を殺害する生徒、絶望して自ら死を選択するカップル、争いを止めて協力を求める生徒、島のシステムにハッキングし、爆弾を解除しようとする生徒、快楽殺人に興じる転校生と、それぞれが様々な思惑を胸に3日間のデス・ゲームが進行していく。
【感想】
原作未読。映画化に際して削除・変更されている部分も多々ある様子で、“新世紀教育改革法”という名称も、原作では“戦闘実験第六十八番プログラム”だという。
また、作中での設定説明だけでは、本来の原作にある詳細な設定が把握しきれない。キタノが言う「(子供が)大人をナメてる」理由は、大人を頼れなくなった世界で子供達が暴走し、学級崩壊や家庭崩壊が各地で発生したから。学校でキタノが国信(ノブ)にナイフで切られたのも、少年犯罪の増加や校内暴力による教師の殉職が起きたことによるもの。
荒唐無稽極まりない設定、ツッコミ所満載のストーリー展開と、非常に荒削りな印象を受ける。しかし、まるでノコギリの刃でギコギコ斬られているかのような感覚を覚える本作は、カルト的な人気も頷ける。世界的にも様々な作品に多大なる影響を与えた事は、今日のフォロワー作品の多さが証明している。
ジュゼッペ・ヴェルディ作曲『レクイエム』の「怒りの日」で始まるオープニングが最高にクール。テロップによる世界観の説明、BR法の優勝者の少女の不敵な笑み、画面上下からせり上がり・せり降りてくる“BATTLE ROYALE”のタイトル表示までの一連の演出に、ガッツリと心を掴まれた。映画史に残る最高のオープニングの一つなのではないだろうか。
BR法のルールも非常に魅力的。支給される武器に当たりはずれがあり、中にはそもそも武器として機能しないものすらあるというランダム要素は笑いにも繋がる。
このランダム性を、今回の再上映での入場者特典である“支給武器カード”にした配給側の判断も面白かった。観客も彼らと同じ感覚を共有出来るのは素晴らしい。
私が支給されたのは、男子10番・笹川竜平の〈ウージー9mmサブマシンガン〉だった。すぐさまラスボスの桐山に掠奪され、彼のメインウェポンとして存在感を放っていた武器なので、意外と当たりかもしれない。それにしても、この世界の銃は殺傷能力低過ぎるだろ。
極限の状況下で、カップルで自殺する生徒が存在するというのは、若さ故の過ちとしてリアリティがあった。ただ、そういうカップルが複数存在するのだから、一組くらいはどちらかが相手を裏切って殺すという展開があっても面白かったはず。
女子ならではの、光子の生理を見抜いて襲撃してくるという生々しさも、過酷なサバイバル環境下での殺し合いという説得力があった。
禁止エリアで死亡する生徒が居なかったのは残念。禁止エリアを設定している以上、戦闘での負傷で制限時間内に脱出出来ず、無念の死を遂げる生徒が居ても良かったのではないだろうか。
【後のスター達が織りなすアンサンブル】
後のスター俳優達から政治家まで、今観ると出演者がとにかく豪華。皆、初々しく、端役の俳優の演技などは特に芝居掛かっていて、まるで学芸会なのだが、中学3年生という設定がそうしたチープさに「ある意味正解」という感覚を与えているから面白い。
本作の主人公である七原秋也役の藤原竜也は、後に『DEATH NOTE』(2006)や『カイジ』シリーズで大ブレイクを果たすが、この頃から『カイジ』や本作のようなデス・ゲーム作品である『インシテミル/7日間のデス・ゲーム』(2010)等に繋がる“理不尽な事態に巻き込まれる主人公”への適正を示していたのだと思うと感慨深い。ネットミームとなった「と゛う゛し゛て゛だ゛よ゛ぉ゛」の片鱗が垣間見えるのもポイント。
父の自殺によって大人を信じられなくなっているという背景を持つが、自分を残して首を吊った挙句、トイレットペーパーに無数に書き殴った“秋也ガンバレ!”という無責任な励ましの姿には、「そりゃ、大人を信じられなくなるよね」と同情する。
支給武器である〈鍋の蓋〉が、斧による攻撃を防ぐ事にしか使われなかったのは残念。紐で身体に括り付けて防弾チョッキの代わりにしてみても面白かったろうに。
ビートたけし演じるキタノの放つシュールさが、過激な本作において緊張と緩和を担っている。『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズのアスカ役、声優の宮村優子によるBR法の解説ビデオへのリアクション、校庭で一人BR体操を踊る姿、秋也に撃たれた後、娘からの着信でムクリと起き上がる瞬間は、完全にコントのノリ。
中川典子役の前田亜希の演技は、姉である前田愛と比較すると少々見劣りするが、童顔な顔立ちが中学生らしさに説得力を持たせている。典子もまた、秋也と同じく受け身タイプなので活躍の場が乏しく、更には争いを好まない良い子過ぎる設定が、個性豊かな他の女生徒の中で埋没してしまう要因になってしまっているのは勿体なかった。
栗山千明演じる千草貴子が良い。窮地にあっても日課のジョギングを欠かさない等、我の強さ、マイペースさがあるのも面白い。
「私の全身全霊を懸けて、あなたを否定してあげる!」は名言。
しかし、新井田から「お前処女だろ」と言われて頭に来た際の「カッチ〜ン」や「神さま〜」という芝居掛かった台詞は少々冷める。
相馬光子役の柴咲コウの演技は強烈。江藤の隠れ家を訪れた際の、懐中電灯で下から顔を照らす姿は完全にホラー。
「私はただ、奪う側に回りたかっただけなのに…」
絶命する際のこの独白や、男子に身体を許して油断させ返り討ちにする姿は、彼女がこれまでの人生で周囲の男性(特に大人)からの性的虐待を受けてきたであろう事や、複雑な家庭環境を想像させる。
塚本高史演じる三村信史は、ゲームシステムをハッキングするという中学生離れした活躍を見せる。彼が持ち込んだ「腹腹時計」という教本が実際に存在するというのは驚いた。爆弾の製造法やゲリラ戦の戦法が記されているそうで、三村のハッキングテク含めて、ここは特にファンタジーをしていた。
実質的なゲームのラスボスである桐山和雄役の安藤政信は、台詞すら発さないが、殺戮を楽しむ狂気に満ちた演技が凄まじい。川田との最終決戦で見せた完全に「イっちゃってる」目つきは、強烈に焼き付く。ただし、桐山のキャラクターについては、殺人への好奇心からBRに参加した以外の背景が分からず、単なる快楽殺人者以上の掘り下げが無かったのは残念。
本作一おいしい役を演じていたのは、間違いなく川田章吾役の山本太郎だろう。今はもうすっかり政治家のイメージが付いてしまったが、味のあるいい俳優だなと驚いた。
前回大会の優勝者という設定から、とにかく戦闘から治療、料理に至るまで経験豊富な万能枠で、「ワシ、医者・コック・漁師の息子やねん」と、その時その時で立場がコロコロ変わる様子は面白かった。
【考察】
ビートたけし演じるキタノが放つ台詞の数々に、本作の本質があるように思う。
「人生はゲームです。皆は必死になって戦って、生き残る価値のある大人になりましょう」
キタノが生徒達に向けたこの台詞は、そのまま現代社会を生きる我々への痛烈なメッセージに感じられた。生まれた時から物質に満たされ、情報に満たされ、必死になって生きる事を忘れていやしないかと。
それは、ラストで真っ黒な画面に表示される“走れ。”の赤い文字にも言える。夢を持ち、目標を持ち、限られた人生における“若さ”溢れる時期を全力で駆け抜けろという事なのだろう。
「人のこと嫌いになるってのは、それなりの覚悟しろってことだからな」
人は簡単に人を嫌いになれる。それは、好きになるよりずっと楽なことだ。だが、時に他者への拒絶は、取り返しのつかない事態を招く事にもなりうる。もっと互いに歩み寄る努力をしてみても良いのではないかという事なのかもしれない。
説教臭くはあるが、過激な本作の底に流れているのは、至極真っ当なメッセージなのだ。
【俺は泣いたぞ、杉村弘樹】
作中、支給武器の探知機を手に、時に秋也を助け、三村グループを訪れと、影の功労者としての活躍を見せていた高岡蒼佑演じる杉村弘樹。
彼は、ずっと片想いしてきた琴弾加代子に会いたい一心で、過酷な殺し合いを生き延びてきたのだ。しかし、彼は琴弾の銃弾によって倒れる。絶命する直前、ようやく彼は秘めた想いを告げる。
「可愛いな、琴弾。ずっと好きだったんだ」
「どうして!?私達、一度も喋ったことなかったじゃない…」
琴弾は混乱し、そもそも何の接点もなかったはずの自分に、何故杉村が好意を寄せたのか理解出来ない様子。
その時、俺の心の中の藤原竜也が叫んだ。
「「「ど゛う゛し゛て゛だ゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ーー!!どうして杉村を撃った!!??」」」
バカヤロウッ!!世の中には“一目惚れ”ってのがあんだよ!!でも、杉村はそんな琴弾に会いたい一心で、死ぬかもしれない事を覚悟の上でやって来たんだぞ!!彼はずっと、声を掛けることすら出来ずに、想いを募らせながら琴弾のことを見つめていたんだと想像したら泣けるよ。
俺だって、つい最近フラれた半年片想いした相手は一目惚れで、まともに会話すらした事なかったよ!でも、向こうが辞めちゃうって知ったら想いを伝えずにはいられなかったよ!
だから余計に、杉村の最期に共感出来て、深く深く突き刺さって離れない。
可哀想な杉村。可哀想な俺。幸あれ。
【総評】
カルト的人気、後世の作品への影響力の高さも頷ける尖った一作だった。粗の目立つ脚本、学芸会かのような若い俳優陣の演技と、決して手放しで賞賛出来る作品ではないのだが、それでも一見の価値ある作品なのは間違いない。
それでは、悲恋の最期を遂げた杉村弘樹君のご冥福と、全ての叶わぬ恋心を抱えている人に幸あれと願いを込めて。合掌🙏