橋のない川(1969)のレビュー・感想・評価
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大逆事件の新聞の見出しと、カラーの夕陽のシーンの意味
冒頭に「協力 部落解放同盟中央本部」と大きくでます
つまり部落差別問題という非常に重いテーマの映画です
奈良盆地のある被差別部落の物語を、主に小学6年生の男児を中心に描きます
時代は明治の末年とでます
正確には明治43年1910年の初冬から物語は始まっているようです
明治天皇の崩御で明治は明治45年1913年7月30日までになりました
大葬儀は大正元年9月13日、その夜の事件、その年の年末の大掃除の事件、そして新年の出初め式の事件と続きます
劇中でチラリと写る新聞の見出しに「大逆事件判決」とあります
明治天皇暗殺計画の容疑者への判決が下ったことを報じています
1910年5月、まず4名が逮捕され、その後数百名の社会主義者や無政府主義者が逮捕された事件です
1911年1月18日に24名の死刑判決が下されていますから、そのシーンは判決の翌朝だったわけです
そしてこの事件の場所は信州でした
劇中で何度も言及される島崎藤村の小説「破戒」は明治39年1906年に初版刊行されています
本作の劇中の時代の5年前のことです
1962年に市川崑監督で映画化されています
できれば先にこちらをご覧頂いた方がよろしいかと思います
この小説の舞台もまた信州です
つまりこの新聞の見出しを写す意図は
こういうことです
部落解放運動は、社会主義や無政府主義、すなわち共産主義運動と不可分であるという共産党の考え方を観客に主張するということです
そして本作は白黒作品なのですがラストシーンだけがカラーになっています
まるで日の丸の国旗が燃えているかのように、夕焼け空が画面で四角く燃え中央に夕陽が紅く丸く写されます
獲得したはずの優勝旗が部落差別によって燃やされてしまったシーンの直後から、このカラー映像が挿入されるのです
演出の狙いは明らかだと思います
こんな日本は燃やしてしまえという意味に見えるのです
即ち共産革命こそ部落解放をなし得る手段であるというメッセージに受け取れるのです
これらには、共産党員員である今井正監督の立場がそこに反映されているとと思います
この辺りが、共産党と部落解放同盟との関係悪化につながっていくのだと思われます
その結果、冒頭には部落解放同盟の協力と明記してあるのに、本作はその部落解放同盟から「差別助長映画」だと見做されてしまうのです
第二部の製作においては、部落解放同盟からの製作反対の抗議が激しく行われ、クランクインが遅れて第三部は第二部に合体することになります
さらには上映阻止キャンペーンが行われて上映阻止の実力行使事件が起きてしまうことにまでなります
自分が生まれ育った地方では、被差別部落が点在しており、中学校で人権を学ぶ授業もありました
しかし、本作ついて小説のことは教わっても映画については一切触れられなかったのはこうした経緯があったからだったのでしょう
こういうことを知ったのは大人になったかなり後のことでした
最後のテロップにある全国水平社とは、部落解放運動の最初の全国組織の事で、今の部落解放同盟の前身に当たるものです
その後まもなくとテロップにはありますが、10年後の1922年に設立されました
その創立発起者には、本作に登場した人々がモデルになっています
畑中誠太郎の弟の孝二は、木村京太郎
小森村の寺の息子は、西光万吉のことだと思われます
詳しくは各自でお調べ下さい
奈良県御所市(ごせし)には、水平社博物館があるそうです
神社仏閣や古代遺跡だけでなく、こちらにも見学に行ってみたいものだと思いました
明日香村や橿原神宮から僅か数キロのところだそうです
原作からかなり翻案されていますが、実に真っ当な映画だと思います
決して差別助長映画とは思いません
共産党の立場を横に置いて観れば、実力ある今井正監督の確かな演出、素晴らしい俳優達の演技、脚本の巧さに魅せられ、被差別部落の問題について考え、部落解放運動への理解を深める端緒になり得る良い作品であり、観るべき作品であると強く思います
観て良かったと思う映画です
本作は今から100年以上前のお話しです
部落差別は表面上見えなくなっているだけで、未だ水面下に隠然と存在しているようです
LGBT差別、人種や民族差別、職業差別
それらを批判するよりも前に、この差別問題をどう考えるのか、どのように自分は立ち向かうのか
立ち向かえるのか
まず自分に問うべきだと考えさせられました
ラストシーンはモノクロからカラーへと変わる珍しい編集。
リメイク版を先に見ていたのに、こちらの方がわかりやすく感情移入もしやすい仕上がりとなっていた。特に小学生だった誠太郎の「エッタ」と差別することに反発するも自ら喧嘩の理由を言えない気持ち。そして、職員室に文句を言いに飛び込んだお祖母ちゃん役の北林谷栄。
そして後半に入ってからは、弟の孝二の在所の少女・杉本まちえへの淡い恋心。明治天皇崩御の大葬の夜に彼女に手を握られたこと・・・これが後に「小森の人は蛇のように冷たい手」ということを確かめたかったと告げられるショック。第二部にもこのエピソードが繋がっていくが、ここからずっと孝二が恋をしてないところからして、かなりトラウマとなったのだろう。在所の子でも部落民に差別意識がない子がいると信じていたことが崩れ去ったのだから・・・
最も泣けるのは火事を出してしまった藤作の息子武のエピソードだけども、火事に対して、小森という理由で消火活動しない在所の人たち。自殺してしまったのは差別が直接原因ではないにしろ、いじめによって卑屈な心になっていたんだろうと想像できる。最後にはこの大火によって藤作(伊藤)が家を売って消防ポンプを買い、部落対抗提灯落としに勝つまでのストーリーとなる。その優勝旗を他の村の者が結託して奪い焼き払うという、可笑しいほどの光景によってエンディングを迎える。 差別の実態、人間のいやらしさが伝わるエピソードがいっぱいで、人間不信にも陥りそうです。
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