「古き良き日本の原風景」麦秋 ジョニーデブさんの映画レビュー(感想・評価)
古き良き日本の原風景
この映画を一言で言えば、家族愛の物語だ。今の価値観や結婚観からかなり乖離しているし、また、下記の気になった点でも挙げている通りいろいろと問題もあるのだが、古き良き日本の家族愛を感じられる小津安二郎の傑作のひとつに違いない。
個人的には原節子はそれほど好きな女優ではないのだが、この映画に限っては、役柄のせいもあるが結構気にいっている。家族愛の他にも、原節子と淡島千景の友達関係が実にいい感じだ。
笠智衆が兄役で、東山千栄子が母親役であるが、この2年後の「東京物語」では東山千栄子と笠智衆は夫婦になっている。そう考えると、この映画の父親役もいい味を出していたが、笠智衆でもよかったかもしれない。
食べるシーン多い小津作品の中でもこの映画は際立って多く、食べるシーンだけでも喜怒哀楽が伝わってきて、見ているだけで癒される。
<気になった点>
・耳の聞こえない人や同性愛に対する差別的発言
・歳の離れた人と結婚するのをかわいそうと言っている
・結婚していない女性への偏見
・子供たちの態度が生意気(小津の映画には多い)
・金持ちと結婚することが理想と思っている
・原節子の結婚について、両親より兄の方が真剣に心配している(どちらも心配しているが、比較の程度で、両親はやや傍観者的な感じだった)
・子供たちが行方不明になっているとき、他の家族は必死に探しているのに、父親はのんきに囲碁をしていて良いのか
・ショートケーキが900円とは、今の物価がで換算したら1万円以上ではないか(もしかしたら2万円位?)また、ホールなので、一家全員で食べられるはずなのに、なぜ子供たちにあげなかったのか?
・ヘップバーンのブロマイドを集めていると言う話が出てくるが、彼女が日本で人気が出るのこの映画公開の後の「ローマの休日」以降のはず。しかも彼女たちが学生の頃だったら10年前の話であるので、オードリー・ヘップバーンならまだデビューしていない、と言う事はキャサリン・ヘップバーンのことか?
・個人的には小津作品の音楽はあまり印象に残らないのだが、この映画に関しては冒頭と最後のほうに流れるオルゴールがすごく印象に残った。家族団欒の雰囲気を盛り上げるには良いのかもしれないが、ちょっとメルヘンチックぽく感じた。心地よいが。