白蛇抄

劇場公開日:

解説

若狭の山寺を舞台に、そこに後妻として住みついた女と住職、その息子との愛を描く。水上勉の同名小説の映画化で、脚本は「南極物語」の野上龍雄、監督は「誘拐報道」の伊藤俊也、撮影は「陽暉楼」の森田富士郎がそれぞれ担当。

1983年製作/118分/日本
配給:東映
劇場公開日:1983年11月12日

ストーリー

石立うたは、二年前、京都で火事にあい、夫を失って絶望のあまり若狭の心中滝に身を投じた時、華蔵寺の住職懐海に助けられ、そのまま後妻として寺に住みついていた。懐海にはひとり息子昌夫がおり、彼は出家ずみの身で来年高校を卒業すると本山に行くことになっている。ある日、華蔵寺にうたの遠い親戚に当るという十五歳の少女鵜藤まつのが引きとられてきた。この寺での初めての夜、まつのは異様な女の呻き声を耳にした。その声は隠寮から聞こえてきた。夜ごとうたの体に執着する懐海。それを覗き見する昌夫。彼はうたに惹かれていた。もうひとり村井警部補もうたが身を投げ救助された時に立ち会って以来、彼女に魅せられていた。投身の時、うたが抱いていた石骨の中味に疑問を抱いた村井は、石骨を取り戻そうとするうたに力づくで情交を迫った。その石骨はうたの死んだ赤ん坊であった。かけつけた昌夫は村井の後頭部に石を投げつけうたと共に逃げた。雨が降り出し、山小屋へ駆け込んだ二人はいつのまにか抱き合っていた。その日から昌夫は大胆になり、うたも日ごと昌夫の体に溺れていった。そうしたある日、懐海はうたと昌夫が密会している場所に動ける筈のない体を引きずっていって殺された。昌夫は本山に修業に出た。懐海の死に不信を抱いた村井は、まつのに死んだときの様子を問いただし、うたと昌夫が愛し合っていることを知った。うたは昌夫に会うべく京都に向ったが、昌夫もうたに会いたいために寺を飛び出していた。若狭に戻り、心中滝に立つうたの背後に村井が近づいて懐海を殺したのではないかと詰め寄った。口論のうち村井は足を滑らせて滝壷へ落ちた。華蔵寺に着いた昌夫にまつのは愛を告白するが、彼は振り切って外に飛び出した。そこにうたの姿が。本堂に走ったうたを昌夫は追うが、うたは「来たらあかん」と斧を持ちながら叫ぶ。斧を奪った昌夫が激昂してふりかざした下にうたは微笑みながら身体を入れてきた。血飛沫が舞った。昌夫も自殺し、心中を眼にしたまつのは本堂に火をつけた。

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スタッフ・キャスト

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受賞歴

第7回 日本アカデミー賞(1984年)

受賞

主演女優賞 小柳ルミ子

ノミネート

新人俳優賞 杉本哲太
新人俳優賞 仙道敦子
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映画レビュー

5.0西洋的な概念のファムファタルを、舞台を寺におくことで煩悩という形で無理なく日本の物語としています

2022年3月30日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

強烈な映画を見ました
度肝を抜かれました
ここまで凄い映画であったとはと圧倒されました

白蛇は弁財天の遣いとされて金運・出世・財運をもたらすと言い伝えがあり、白蛇が現れる夢は大吉夢といいます
中国の伝説では、白蛇の妖怪が白衣の美しい女性に化けて、淫慾を満たしその心肝を食うために若い男性を攫うというものです

主人公のうたはこちらです
ファムファタルそのものです
ファムファタルとは男を狂わせ破滅させてしまう運命の女のこと

本人は何も悪くないのに、彼女の女の肉体の魅力
それだけでなく、声、物腰、雰囲気、そんな彼女がそこにいるだけで関わる男全てを皆狂わせて破滅させてしまうのです

最初の夫は火事で死に、男の胎児は死に、彼女を寺に置いてくれた住職は体を壊した末に彼女の体の色に狂い息子に蹴り殺されてしまいます
その息子、昌夫も彼女の魅力に狂い破滅します
彼女を滝壺から救いだした地元警察の村井刑事もまた彼女の肉体に触れたが為に狂い、死んでいきます
最終的には自らまで破滅します

西洋的な概念のファムファタルを、舞台を寺におくことで煩悩という形で無理なく日本の物語としています

とにかく小柳ルミ子が圧倒的な存在感と演技力を示します
日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞しているのは納得です
というかもっともっと映画に出て欲しかったものです
歌手が本業でそちらの方を優先されるのは致し方ないでしょうが、ここ30年ほども活動が迷走気味であったのは残念な限りです

日本映画界にとって希有な逸材であったはずです
もったいない限りでした
五社英雄監督や降旗康男監督の作品に主演女優で配役されていならどれほどの名作が生まれたことでしょう

小柳ルミ子31歳
女の魅力が満開です
細い骨格なのに肉感的なのです
柔らかい線が肩にも、腰にも、背中にも、太ももにもあります
だらしなく崩れている柔らかさではありません
均整の取れたプロポーションでそうなのです
だから着やせしているのに、薄いサマーセーターや後ろボタンの白いブラウスの胸を尖った乳房が突き上げているのです
ふわっと女性の良い匂いが画面から漂うような錯覚が起こります
人柄も柔かく福岡出身の彼女が京都弁を自然に操っています

こんな女性が身近にいたら幸せ?
いいえ!
危険です
身の破滅です
さっさと彼女から距離を置かなければ狂わされてしまいます
人生も家庭と仕事も破滅させられてしまうからです

しかし本当のファムファタルにはそんなことは通じません
一目見ただけでもう男を虜にしてしているのです
その場を離れることができたとしても、遅効性の毒物をあおったかのようにじわじわと彼女に心を掴まれてしまうのです

彼女は何も色目を使っている訳でもありません
普通に男たちと接しているだけなのです
なのに男たちが勝手に彼女に狂い破滅していくのです

小柳ルミ子はこのファムファタルを完全に表現しています
これがファムファタルの恐ろしさだと納得の演技でした

恐ろしい存在です
しかし、このように分かり易い肉体的魅力であるのならまだ避けれます
もっと怖いのは、肉体的性的な魅力が外見に現れていないのに何故か男を狂わせる女性もいるのです
そのような存在にはいかなる抵抗も虚しいでしょう

本作の主人公は実は14歳くらいのまつのだったかも知れません
彼女は普通の女子中学生としてこの寺にやって来ます
しかし、うたと暮らしているうちに彼女もまた恐るべきファムファタルになってしまうのです
彼女こそその究極のファムファタルになっていく女性なのかも知れません
仙道敦子は出演時、実年齢も14歳
未成熟で細く固い、女性らしい線は骨格のみで、肉感的なものはまだ皆無です
それを新体操部のレオタード姿で見せて、小柳ルミ子との肉体の違いを対置して際立てて表現されています

クライマックスの大火の炎に照らされる彼女の泣き顔はファムファタルが次の世代の女性に乗り移ったことを示していました
まつのは、うた以上のファムファタルになるに違いありません
まだ少女、柔らかな曲線も肉も無いのに
性的な魅力は殆どなくまだ子供でしかないのに
なのに恐るべき結末に至るのです

白蛇は、滝壺に沈んでいたあるものをつつんでいた腹帯がほどけて水中で白く長く漂う影のことを指すのでしょう

そしてまた、終盤の夜に滝壺を見下ろす崖の上に立つうたの姿です
暗闇の中に青白く佇むうたを一瞬夏祭りの打ち上げ花火が白く照らしだすのです
まるで白蛇がいるかのように

感動の演出でした

いつの日にか、あなたのそばにファムファタルが現れるかも知れません
本作を観ていれば警戒できるでしょう
しかし無駄かも知れません
真のファムファタルなら一目見て二言三言言葉を交わしていたならもう遅いのです
彼女のことがだんだんと脳裏を占めだし、気がついたなら本作の住職や昌夫のように何もかも考えられなくなるのです

あなたが女性なら、自分がファムファタルかどうか
それはあなた本人にはわからないのです
結果だけがそれを教えてくれるのみなのです

改めてファムファタルの恐ろしさを知った映画でした

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あき240

3.5小柳ルミ子に尽きる

2020年2月18日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

主人公(小柳ルミ子)は滝に身投げするが、お寺の住職に助けられ、そのままお寺で暮らしている。
その後、住職はボケてしまい単なるエロ爺となり、主人公の体をむさぼる毎日だ。
高校生の息子(杉本哲太)が一人いるが、思春期で性欲が上がる一方だ。
運命に翻弄されている、としか言いようのない幸薄き女性を小柳ルミ子が熱演、裸身は芸術的だ。

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いやよセブン