人間の條件 第1・2部

劇場公開日:1959年1月15日

解説

空前のベストセラーとなった五味川純平の同名小説の映画化。今回はその第二部まで。「有楽町0番地」の共同執筆者・松山善三と小林正樹が脚色、「黒い河」の小林正樹が久方ぶりに監督した。撮影は「裸の太陽」(東映)の宮島義勇。「裸の太陽」の仲代達矢、「鰯雲」の新珠三千代をはじめ、佐田啓二・有馬稲子・淡島千景・南原伸二・山村聡らの多彩なキャスト。

1959年製作/201分/日本
原題または英題:No Greater Love
配給:松竹
劇場公開日:1959年1月15日

あらすじ

昭和十八年の満州、梶と美千子の夫婦をのせたトラックは老虎嶺鉱山に向けて走っていた。満鉄調査部勤務の時に知合い結ばれた二人は、友人影山の勧めで労務管理の職につく梶の任地に行くのだ。戦争に疑いをもち、妻を愛する梶が、召集免除を条件に自ら選んだ職場が、そこに彼を待っているはずだった。しかし、現地人の工人達を使って苛酷な仕事を強いる鉱山の労働条件は、極度に悪かった。現場監督岡崎一味の不正に対抗し、同僚沖島や部下の現地事務員陳の助けをえて、梶の苦闘がつづく。折から上部より二割緊急増産の指令とともに、北支から六百名の捕虜が特殊工人として送りこまれてきた。半死状態の捕虜たちは電流を通じた鉄条網の中に入れられ、労働意欲をかりたてるためと称して娼婦をあてがわれた。工人の高と、娼婦楊春蘭の愛が芽ばえたのは、そんな条件の中でだった。一方、朝鮮人の張命賛は、娼婦の金東福を使って、工人を脱走させる仕事で甘い汁を吸っていた。真面目な陳を金東福の色じかけで手中に入れ、弱点を握って鉄条網の電流を一定時間とめさせるのだ。牟田や古屋が日本人側からこれに加担していた。特殊工人と話し合って、現状での最善の状態を作ろうと努力し、梶は二割増産を達成させた。しかし、楽しみにしていた美千子との休暇は、張一味による脱走事件の発生で中止となった。張一味と結んだ古屋は、梶をねたんで再度の工人脱走を企てた。だが、陳は良心の苛責から、三千三百ボルトの電流の通じる鉄条網に自ら身を投じて死んだ。現場監督岡崎の非人間的な態度は、特殊工人の反感を買い、ある時、高をはじめとする七人の抗議事件をひきおこした。憲兵軍曹渡合の手で、七人は日本刀による斬首の刑に処されることになった。一人、二人と残虐な処刑が進行するうちに、それを見る梶の心理は激しく動いた。特殊工人たちの喚声の中で、遂に梶は「やめてくれ!」と声をあげて叫んだ。処刑は中止された。しかし、そのあとには、軍部に反抗を企てた梶に対する、恐るべき憲兵隊のリンチが待っていた。そして、半死半生で釈放された彼につきつけられたのは、現職免除の命令と、臨時召集令状だった。

全文を読む(ネタバレを含む場合あり)

スタッフ・キャスト

全てのスタッフ・キャストを見る

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む

映画レビュー

「やっぱり戦争はしちゃいけない」では済まされない

2025年8月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 中学生の時にお弁当を二つ持って劇場に向かった時以来、約50年ぶりに全編9時間31分(途中休憩を2回挟んで計10時間)の6部一挙上映に臨みました。五味川純平・畢生の大作の映画化作です。太平洋戦争末期、旧満州の鉱山で劣悪な条件下で中国の人々を徴用していた満州鉄道で労務管理を担っていた男が、労働者を人間らしく扱おうとする内に時代の波に呑まれてやがて自身も戦争へと巻き込まれるお話です。僕の映画史で最長の上映作ですが、ただ長いだけでなく濃密な内容で、50年前には鑑賞後に原作全6巻を読み直したものでした。そして、今回改めて観て。

 例えばです。多くの人に見守られながら特攻機が飛び立って行き、その背後にバラードが流れ、スクリーンでそれを観る人は涙しながら「ああ、やっぱり戦争はしちゃいけないんだ」と思うというパターンが日本の戦争映画に近年多く見られます。それが決して悪い訳ではありませんが、本作はそんな作品と比べると、物語のドキドキ・ハラハラを保ちつつも観客を突き刺す刃の鋭さ・強さ・深さが別次元の凄まじい作品でした。

 中国の人々への加害・日本人の傲慢・軍隊内部(特に内務班)の非人間性・戦場での殺される恐怖・人を殺す恐怖・敗残兵として逃げる緊張感と飢餓感・女性へのロシア兵及び日本兵による性的暴行など、戦争の全てが描かれていると言ってよいでしょう。それらを通して描かれるのは、「個人の甘っちょろいヒューマニズムなど何の力も持ち得ない」という残酷な事実です。原作ではそれを「センチメンタル・ヒューマニズム」と表していました。「では、あなたならどうする?」を問い詰めるスクリーンからの圧力が息苦しいほどで、自分の眼で実際に戦争を見て来た制作者・出演者の人々の戦争への怒りが渦巻いています。

 「私は人間である」と言ってよい条件とは一体何なのか? その辛い問いが、戦争と言う環境下では生身の形で突き付けられます。弱虫の僕はそんな詰問に堪えられとは思えません。一方、戦争が始まってしまったら個人のヒューマニズムなど簡単に圧殺されてしまいます。だから厳しい問いを避けながらのんべんだらりと生きたい僕は、その為にも、戦争の1歩前ではなく2歩前・3歩前で止めねばなりません。それが戦前を生きるまさしく今なのではないでしょうか。

コメントする 2件)
共感した! 1件)
La Strada

4.0戦後大ベストセラー

2025年6月19日
PCから投稿

戦後の大ベストセラーを小林先輩が畢生の大作に仕上げました。
敗戦後の日本人の戦争に対する考え方がよくわかる作品ですが、今観るとそうなった責任の一端は国民自身にもあるんじゃない?と感じますが、それはこの作品に対してだけの話ではありません。
映画と小説を同時進行で鑑賞するとより深い感動があります。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
越後屋

0.5「軍隊ヤクザはつらいよ♥️」

2025年6月1日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD
ネタバレ! クリックして本文を読む
コメントする 2件)
共感した! 0件)
マサシ

4.0現代では到底つくれない良作だった。しかし一方 随分、冷めた目でも観...

2024年9月9日
PCから投稿

現代では到底つくれない良作だった。しかし一方 随分、冷めた目でも観ていた。当たり前のことだけれどもやはり❝映画❞なのである。理想主義の梶は能力のほか、気力、体力、腕力があった。兵隊に引っ張られる前は三千子という愛し愛される妻もいた。梶演じる仲代達也の風貌もいい。 三千子も美人だ。良きものを与えられた上での設定なのだ。感動させられるのも当然である。では それらをひとつでも欠いて 満州の戦場に赤紙1枚で引っ張られた者はどうなるのか・・・・・・・・・・・。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
青山 明

他のユーザーは「人間の條件 第1・2部」以外にこんな作品をCheck-inしています。