日本列島のレビュー・感想・評価
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戦後日本に起きた幾つかの事件に関する仮説を提示
熊井啓監督・脚色による1965年製作(115分)の日本映画。原題:A Chain of Islands、配給:日活、劇場公開日:1965年5月26日
ジャーナリスト吉原公一郎による「小説日本列島」が原作。小説の形だが、作者がほぼ事実と考えることを、便宜上、小説形式で発表したものだそう。
主人公は、妻を米軍兵士により暴行致死された過去を持つ米軍通訳の宇野重吉。彼が新聞記者二谷英明と協力し合いながら、調査を進めて行く。
国鉄総裁轢死の下山事件(1949)も米軍関与が噂されたが、BOAC(英国海外航空)スチュワーデス殺人事件(1959)の裏に外人組織麻薬密輸による資金作りがあり、更に陸軍がドイツより購入したザンメル印刷機を使った米国諜報機関による偽札作りが、次第と明らかとなっていく。
行方不明になっていたザルメル印刷機技術者の娘が芦川いづみ。彼が生きていそうということで、宇野重吉は沖縄に向かうが、二人の死体が見つかったとの情報が芦川に届く。国会議事堂をバックに、何かを決意した様に闊歩する芦川の姿で、映画は終わる。
独立国でありながら、米国の言いなりの様に思える日本政府への、熊井啓らの激しい怒りを感じさせた。そして、悲しいことに、その問題は依然として綿々と今も続いていることに、唖然とさせられる。
監督熊井啓、脚色熊井啓、原作吉原公一郎、企画大塚和、撮影姫田真佐久、美術
千葉和、音楽伊福部昭、録音沼倉範夫、照明岩木保夫、編集丹治睦夫、スチル
斎藤誠一。
出演
宇野重吉秋山、二谷英明原島、鈴木瑞穂黒崎、芦川いづみ伊集院和子、木村不時子小林厚子、紅沢葉子とよおばさん、西原泰子椎名加代子、北林谷栄佐々木菊子、庄司永建川北、
大滝秀治涸沢、日野道夫生沢、武藤章生宮川、佐野浅夫佐々木、内藤武敏日高、下元勉警視総監、加藤嘉刑事部長、長弘捜査一課長、雪丘恵介捜査三課長、K・ロベルトハロルド・コンウェイ、S・ウインガーブルノー・ボードワン、ガンター・ブラウンルイス・サミエル、
ガンター・スミスJ・ポラック中尉、平田守服部、F・ブルノースペンサー大尉、チャーリー・プライスンE・リミット曹長、白井鋭男A、高山千草メイド、佐々木すみ江栄子、小柴隆記者A、露木護記者B、伊豆見雄中野部長刑事、山岡正義下山事件の刑事、横田楊子黒崎の妻、小野武雄小学校の小使、土田義雄T版印刷班長、長尾敏之助伊集院元少佐、加藤洋美佐々木の長女、二階堂郁夫佐々木の長男、伊藤寿章サミエルの弁護士、中山次夫夏夫、相原ふさ子和子。
UNO!
原作は「小説〜」と銘打っているので、どこまで現実の事件に基づいているのかは定かでないが、いくらなんでも人が殺されすぎと思う。個々の事件の捜査はないがしろにされ、関係者がどんどん死んでいく。さすがに実際には大問題にならなければおかしいと思う。芦川いづみ扮する女性は、父親と目される人物が殺されても、遺体を確かめにも行かない。
ポリティカル・サスペンスとしては、追及過程の描写の歯切れが悪い。コスタ=ガヴラスの「Z」のような成果を期待してしまうのだが。
当時50代の宇野重吉がほぼ出づっぱりの力演。寺尾聰は既に父親の没年を越えた。宇野重吉は「金環蝕」での老獪な政商が印象的だった。
本作の英語題はA Chain of Islandsです そこに着目して頂きたいと思います 日本列島と書いて、鎖の列島と読め そういう監督からのメッセージなのだと思います
本作は1965年の公開
監督は熊井啓
さすが超重量級の見応えです
同名の原作小説は1963年の刊行
原作者は共産党系の原水爆禁止世界大会事務局、「世田谷・九条の会」呼びかけ人であった吉原公一郎
それで本作の立ち位置や、どのようなメッセージを発する作品なのかはもう読まなくとも分かるはずです
物語は1959年秋から1963年にかけてのお話
福生基地とおぼしき在日米軍基地で、米軍MP(憲兵隊)の刑事部門の主任通訳官として働く秋山という元高校教師が主人公
米軍基地内のシーンはもちろん、米国人との会話シーンが多く日本映画なのに字幕が多用されます
彼がある米軍捜査官の不審死の再捜査を指示されることから物語が始まります
熊井監督のデビュー作の「帝銀事件死刑囚」のテーマを更に発展させたような内容です
東西冷戦がキューバ危機によって核戦争寸前の中で、日本は1952年に米国の占領が終わり、主権を回復しているにも関わらず、米国の占領が解けていないかのように、頭上には爆音をあげて米軍機が飛び交い、米軍の秘密機関はアジアにおける偽札や麻薬などの謀略の根拠地として利用している
しかもその手先を旧日本軍の秘密情報部であった陸軍中野学校出身者がしているのだ
彼らは邪魔になった人間は謀略で自殺に見せかけて殺人を繰り返し、日本の司直の力は及ばない
日本政府は米国には刃向かえず言いなりになったままである
これが本作のいいたい事です
綿密に取材されており、大きなところではほぼ本作の通りの事があったであろうと思います
ラストシーンは国会議事堂が大きく写り込み、父を米軍の秘密機関に殺された若く美しい女性が慟哭するのです
本作を観た大衆に米国への怒りを沸騰させ、60年安保闘争の時のように、その怒りを国会にぶつけようではないか
そういうメッセージです
本作公開はモスクワ国際映画祭のコンペティションに参加作品です
それ故に英語題名がつけられています
本作の英語題はA Chain of Islandsです
そこに着目して頂きたいと思います
普通ならthe Japanese Archipelagoと書くところです
なのにJapanese Islandsでも、islands of Japanでもありません
A Chain of Islandsと書けば、単に列島の意味だけであり、日本という場所の意味が消えてしまいます
本当の意味は、鎖の列島という意味なのだと思います
鎖のように連なったではなく、鎖につながれた島々という意味を込めてあるのだと思います
日本列島と書いて、鎖の列島と読め
そういう監督からのメッセージなのだと思います
米国への隷属を止めよ!
それが題名の「日本列島」という意味なのでしょう
そして主権を回復したといっても、小笠原諸島、沖縄、北方領土は、本作公開当時はそのどれも返還されていなかったのです
サンフランシスコ平和条約は、これらを積み残した主権回復であるとも揶揄しているのです
だから本作はモスクワ国際映画祭コンペティション参加作品なのです
しかし、2022年に観るとどうでしょう
なにか製作時の意図とは全く違うメッセージを放っているのです
大いなる皮肉になっているのです
21世紀の私達は知っています
米国だけが卑劣だったのではないことを
ソ連も、中国も、北朝鮮も
平和勢力とその当時はされていた共産圏も卑劣であったこと
五十歩百歩、目くそ鼻くそであったことを
米国だけを悪者扱いにしていた姿勢は、結局のところ東側に利用されていたのだ、日本を東側にひきこもうという政治工作に過ぎなかったことを知っているのです
東西冷戦の狭間のなかで、米国は日本政府を利用し、東側は左翼勢力を利用していただけのことです
どちらも日本人を手先に利用して、水面下で代理戦争をしていたに過ぎなかったのです
ウクライナへのロシア軍の侵略戦争
北朝鮮のミサイル発射
中国の尖閣諸島への終わりのない領海侵犯
今現実にこのような情勢におかれていれば、
いかにお花畑で空想的な平和主義でいても目が覚めるというものです
共産党ですら、党の綱領で違憲であり解消すべき存在であると長年攻撃してきた自衛隊を、日本が侵略をうけたなら活用すると言い出しているのです
今年は1952年の主権回復から70周年の年
4月28日がその記念日です
なのに何の式典すら行われないようです
A Chain of Islands
日本列島はまだ鎖につながれたままではないでしょうか?
それも自分から鎖を外そうとしていないのではないでしょうか?
鎖を外す時がきたように思います
それは本作のように米国から離れるためにではなく、自由と民主主義の陣営の中で一人立ちする時がきたという意味です
米国の庇護下に日本を隷属化させてきた鎖とは、一体なにか?
それは平和憲法だと思います
基地問題、日米地位協定の不平等問題もそこが問題の根源なのです
しかし鎖を切り米国の庇護下からはなれ、12歳の子供から大人になれば、自ずと義務と責任が伴います
日本国民にその覚悟があるのか?
そのようなメッセージを発しているように思えてくるのです
沖縄
「日本はアメリカに255の基地を提供している」というナレーションで始まる。CID(アメリカ陸軍犯罪捜査司令部)の通訳主任という仕事。アメリカ軍人、軍属が関与している殺人など捜査するところだ。通訳なんだから、この水死体の事件はあくまでも個人的。
1年前の事件、死体の捜査権は日本にあるのだが、特例ということで米軍が死体を回収していたのだ。15日後、CID本部から水死ではないと発表された。捜査はそこで打ち切られたが、もっと大きな組織にもみ消されたのではないかと推論した。秋山はかつてのリミットの生活を洗い始めた。リミットと結婚していた女性・小林厚子(木村不時子)を訪ねると、女学校時代の秋山の教え子だった。病弱だった彼女が死に際に言った“涸沢”という個人名と“ザンネル”という単語を足がかりに次々と関係者を当たる。
巨大なスパイ組織の存在。そして麻薬密売と贋札作りの組織。ぼんやりとした形は見えてくるけど、核心に触れようとすると重要人物が殺されたりする。特に、涸沢とも繋がりのあった元スパイ組織の佐々木(佐野浅夫)が死に、妻(北林谷栄)が泣き崩れるところは印象的。一方、印刷機ザンネルの技術者である伊集院の娘・和子(芦川)も沖縄で生きているかもしれない父に思いをはせる。そして、秋山の甥が通う幼稚園の先生・椎名(西原泰子)がスチュワーデスとなり、しばらくして殺された。容疑者のサミュエルは国外逃亡してしまったが、映像を見る限り、犯人らしきはスパイ組織のロベルト。これも捜査が行き詰ってしまう・・・
行き先が見えなくなった秋山は沖縄に行く決心をする。伊集院の消息を確かめるため。さらに組織の存在を確かめるため・・・数日後、和子のもとへ訃報が届く。授業中だから後にしてもらいたかったのに、どうしても今話したいという原島からだった。それだけでピーンときてしまったのだ。学校外で写生の授業。走る和子。汗だくになって聞いたのは秋山、そして父であろう中国人名の人物が殺されたこと・・・泣き叫ぶ芦川いづみがとても強烈。泣くというより、遠吠えのようだった。
暗躍するスパイ組織を追及するのがストーリーの中核なのだが、真のメッセージはそんなところにはない。日米安保反対集会のドキュメント映像も出てくるが、基本的には米軍に対する嫌悪感を見せつけてくれる映画なのだ。インタビューしているときでもジェット機が飛んで会話を遮るし、スパイ組織の存在を掴もうとするたびに命を狙うかのように登場してくるのだ。さらに戦争が生んだ副産物としての国際スパイと麻薬密売という巨悪の存在。生き残った者も口を閉ざさねばならぬ現実をさりげなく盛り込んでいる。そしてCIDという組織に在職しているのが不思議なくらいの秋山。なにしろ、妻を米兵に暴行され殺されたという過去を持つ男なのだ。
日本列島というタイトルの意味。製作年は65年なので、まだ沖縄が日本に返還されてない時代である。沖縄の事件をとことん追いたい原島の沖縄転勤が決まり、出発する際に「日本の夜はもう味わえないんですね」と言われたところ、「沖縄だって日本列島だ」と答えるところで理解できた。
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