二百三高地のレビュー・感想・評価
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伊藤の涙と児玉の涙
序盤、森繁久彌演じる伊藤博文の開戦への決断が描かれる。「命を賭して」「ワシも全財産擲って」「最後の一人となっても」と熱い麗句がならぶ。
以前観たときは、この伊藤の姿勢にも感動したものだが、今回は、児玉源太郎がのちに戦場で流す涙とは性質が異なるものに思えた。
この間に、司馬遼太郎の「坂の上の雲」を読んだり、伊藤の他の書物での論評などから、映画で描かれているのが稀代の人たらしであるように見えた。
児玉や乃木希典が流す涙は、自らの重責に押し潰される人間の顔に流れ落ちる。伊藤のそれは、人の気持ちを動かすために頬を伝う。
実際の伊藤の心中など誰も知るよしもない。ただ、そのような彼の偉大なるインチキ野郎ぶりを、これまた本人がどのようなつもりで演じているのか、推し量りかねる森繁の怪演である。
森繁、丹波、仲代。怪優たちを観るだけでも、価値がある一本だ。
子供たちには、今をときめくアイドルグループは、この乃木希典こそがルーツであると伝えておいた。
・途中のさだメロディー全開は休憩の合図 ・戦争は国と国じゃなく人と...
戦争に翻弄された人々の物語
DVDで鑑賞。
日露戦争の陸戦において最も過酷な戦闘となった旅順要塞(二百三高地)攻防戦を、迫力のスケールと豪華キャストを配して描いたスペクタクル超大作。
司馬遼太郎「坂の上の雲」を読破し、NHKのスペシャルドラマも観て、日露戦争に興味が出て来た頃、東宝の「日本海大海戦」と共に本作を知りました。
「坂の上の雲」でも旅順要塞や二百三高地攻略に関する記述は相当なボリュームが割かれているし、いかに苛烈で凄惨を極めた戦いだったかが窺えました。
本作もそれに負けず劣らず、乃木希典などの司令部、現場の兵士たち、その帰りを待つ人々の視点を交互に織り混ぜながら、この日露戦争での重大なターニングポイントとなった戦闘を描いていて心を揺さ振られました。
教科書通りの戦術セオリーに忠実に乗っ取って作戦を立案する伊知地参謀の意見を汲んで正面突撃を敢行するも、トーチカからの機銃掃射の雨あられを浴び、毎日多大な犠牲者が出てしまいました。苦悩する乃木ですが、要塞に正面突撃なんかしたらどうなるか、子供にも分かりそうなもの…。
起死回生の一手として“白襷隊”を組織し夜間の奇襲を行うも、一夜にして全滅してしまうという有名な悲劇も生んでしまいました。夜陰に隠れて攻撃するのは良いですが、白は闇の中に浮かび上がる色…格好の標的。起こるべくして起こった悲惨な出来事ではないかな、と…。
しかも、伊知地は榴弾砲の設置位置までも戦術の教科書通りに遂行しました。その結果、要塞がまさかの射程外で砲弾が届かないという情けない有り様を露呈してしまいました…。そんな為体でも、参謀の意見に従った乃木を司馬遼太郎は「無能な大将だ」と言わんばかりに糾弾していましたが、本作を観て、決してそういうわけでは無いのでは、と思いました。
司令官が参謀の立案する作戦にケチばかり付けていては士気に関わって来ますし、参謀は作戦立案のスペシャリストの立場であるため、その意見を取り入れるというのは司令官として正しい行いだったんじゃないかなぁ、と…。しかし、あまりにもあまりある場合はきちんと意見すべきだろうし、そこは乃木自身の性格が災いしたのかなと感じました。
旅順港閉塞作戦に失敗したことで、天然の良港である旅順港に隠れている旅順艦隊を叩くには、もはや二百三高地からの砲撃しか無い、と考える海軍からのプレッシャーもあり、乃木の苦悩は深まるばかり…。
現状を見かねた総司令官の児玉源太郎が、ついに旅順へとやって来ました。現場の司令官である乃木を飛び越えて直接戦闘の指揮を執り、榴弾砲の位置を前進させ砲撃を容赦無く加え、効率的な歩兵運用をした結果、何日掛けても落とせなかった二百三高地をあっという間に占領。「そこから旅順港は見えるか!?」「見えます!」のシーンに感動しました。
セオリーばかりに乗っ取っていてはダメだ、という教訓ですなぁ…。ときには型破りも必要なんだなぁ、と…。
しかし、このときの乃木の心中は如何ばかりか…。親友の児玉への感謝と共に、死んでいったふたりの息子や兵士たちのことを想い、有名な「爾霊山」の詩をしたためました…。
明治天皇に旅順攻撃の報告を上奏する際に流した涙が、彼の想いの全てを表しているようで、心が締め付けられました(実際には涙は流していないそうですが…)。
司令部の迷走の煽りを食らうのは、現場の兵士たち―。
あおい輝彦の部隊の群像が描かれました。屍山血河の過酷な戦場において、次々に戦友が散っていき、明日は我が身かと怯えながら、旅順の寒さに震える日々…。
日本で帰りを待っている愛する人々のため、彼らは戦い続けました。お国のため、という気持ちもあったのかもしれませんが、本当は国なんかより大切な人のことを守りたいというその一心だったのではないかなと思いました。
あおい輝彦の無事の帰り信じてを待つ夏目雅子がお美しい限り。懸命に留守を守る彼女の姿を観て、これもひとつの戦争だったんだなと思いました。
国体の全てを懸けて、ギリギリの状態で臨んでいた日露戦争―。その皺寄せは市井の生活に影響し、こっちもギリギリの状態だったのではないかなぁ、と…。
それでも耐えられたのは、愛する人が帰るべき場所を守りたいという強い想いがあったからかもしれないなと思うと、胸がジンと熱くなりました…。
【余談】
「防人の歌」がとても印象に残りました。まさに名曲…。
一度は観て欲しい
戦争において各目線での辛さが描かれた力作だとおもう。
現場上層部(乃木希典etc)は、本部と現場の板挟み、部下の死による自責の念に苦しみ、
現場(主人公)は、仲間の死や、今までの価値観の崩壊、上層部への猜疑心、家族の不安抱え、
日本に残された人達は、送り出した人が帰らぬ人となったことに深い悲しみを覚えている。
しかし誰も私利私欲のために戦争をしているのではなく、
日本を守るため必要に駆られている様が冒頭で丁寧に説明されているため、
それが余計に本作品の悲しさや辛さを助長している。
日本戦争映画の傑作のため、是非とも一度観ることをお勧めする。
兵士の悲惨な戦いと将軍の苦悩
総合:85点
ストーリー: 85
キャスト: 80
演出: 85
ビジュアル: 75
音楽: 75
戦場における一人一人の兵士たちの苦しみや心身の傷だけでなく、戦争に来る前のそれぞれの事情。そのようなことが丁寧に描かれている部分が、戦争の生臭さや残酷さをうまく表現している。風景も本当に寒そうで厳しそう。例え戦争などしていなくても、死ぬかもしれない戦いを前に厳しい寒さに耐えている兵士を見るだけで、十分にその辛さが伝わってくるというもの。さだまさしの悲しい歌がそれを盛り上げる。
さて、乃木神社というのが軍神として乃木希典将軍を祭った神社だというのを知ったのは、物心ついたころ。神社にまでなるのだからたいそう立派な将軍だったのだろうと、なんとなく昔は思っていた。彼は清廉な人格者だと言われる。
しかし将軍としては、この映画のように準備万端の鉄壁の敵要塞に、正面からただ貧弱な武装の無力な歩兵を突撃させ続けるという、要塞攻略戦において最もやってはいけない作戦を採用した。そして多くの将兵をひたすら無駄に死においやったという、とてつもない愚鈍な駄目将軍。まさに一将功成りて万骨枯るである。近年は彼の軍功や能力について疑問を投げかける評価の再考の動きがあるようだが、それも自然なことであろう。
そんなことがあるから、どうも乃木将軍が綺麗に描かれすぎているなと、見ていて少し感じるのである。結局児玉源太郎が要塞攻略用に28センチ砲を本土から搬入して、目標を要塞攻略から二百三高地占領に変えたからこの戦いはうまくいったのではないか。現実には失敗し続けても結局乃木将軍続投となるのだが、映画でも乃木ありきで設定されすぎているように感じた。最後の奏上の場面でも、将兵を失った辛さはわかるのだが、誰のせいでそうなったのかと思ってしまう。
歴史の解釈は色々なのでどれが正しいとは言えない。本来ならば歴史は歴史、映画は映画で別物。おそらく乃木将軍も自分の能力以上の責任を背負わされた、被害者の一人だったのかもしれない。彼が苦悩したであろうことはとてもよくわかる。児玉も敵を吹き飛ばすために味方ごと砲撃するような決断をしている。戦争の勝利の影で、良いか悪いかとか有能か無能かとかを別にして、簡単に失われていく兵士の命と同時に、そのような将軍の苦しみも描きたかったのだろう。だがどうも彼の役柄の設定の良さが自分の考えとは異なってあまり好きになれず、捉え方の違いでこの部分は少しだけ気になった。
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