にあんちゃんのレビュー・感想・評価
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貧乏な主人公の兄と妹、子役2人の演技が実に自然で、健気で、前向きで逞しくもあり魅せられてしまう
今村昌平 監督による1959年製作の日本映画。原題:The Dairy of Sueko、配給:日活。
父母に先立たれた貧乏な在日朝鮮人4兄弟の苦闘の生活を、2女の視点から描く。原作は、在日コリアン安本未子が10歳の頃(小学校3年生~小学校5年生)に書いた日記。
てっきり、長兄役の長門裕之や長女役松尾嘉代が中心と思っていたのだが、次男沖村武とその妹前田暁子が言わば主演で、ビックリ。そして、この2人の演技が実に自然で、健気で且つ前向きで逞しくて、魅せられてしまった。今村監督の演出力が凄いということか。ただ、これだけの素晴らしい演技を見せた2人だが、調べても俳優としては大成していない様なのが不思議には思った。違う道を目指したのだろうか?
次男は映画の中で東京に出たがすぐに警察に補導され故郷に戻された際、将来の上京の決意を語っていたが、実際に安本未子の兄安本高一氏は苦学の末慶應大学に進学したらしくて、嬉しく思った。また未子も日記がベストセラーになったこともあり,早稲田大に進学できたとか。
撮影は、青春の蹉跌(1974年)や復讐するは我にあり(1979年)等、大好きな姫田真佐久。出演者は、北林谷栄、小沢昭一、浜村純、山岡久乃、大滝秀次、芦田伸介、二谷英明等、日活常連組が名を連ねるが、都会育ちで理想主義に燃え主人公兄妹を泊めてあげる保健婦役で吉行和子が出演していて、印象に残った。
監督今村昌平、脚色池田一朗 、今村昌平、原作安本末子、企画坂上静翁、撮影姫田真佐久、美術中村公彦、音楽黛敏郎、録音橋本文雄、照明岩木保夫、編集丹治睦夫。
出演
長門裕之安本喜一、松尾嘉代安本良子、沖村武安本高一、前田暁子安本末子、北林谷栄坂田の婆、福原秀雄夫義雄、高山千草妻花子、高木均正禹、西村晃北村、田中敬子妻菊枝、小沢昭一金山春夫、大森義夫閔、牧よし子閔の妻、殿山泰司辺見源五郎、辻伊万里妻たつ、浜村純西脇、山岡久乃妻せい、大滝秀治いりこ屋主人西河、加代あけみ娘多和子芦田伸介鉱業所長、河上信夫総務部長、加原武門労務幹部、草薙幸二郎坑夫長、日野道夫保健所係長前田、
穂積隆信桐野先生、吉行和子堀かな子、岸輝子かな子の母、二谷英明松岡亮一、松本染升福島精肉店主、高原駿雄東京自転車屋店主。
現代に通ずる雇用情勢
石炭産業も石油などの重化学工業に押され、不況のどん底。舞台となる佐賀県の小さな炭鉱でもストライキが発生して賃上げ要求していたところ。徐々に人員削減を余儀なくされるのだが、見習いとして働いていた喜一(長門)も本採用を期待していたのにクビを宣告。路頭に迷いそうになるのだが、炭鉱に働く辺見(殿山泰司)の家に世話になる。長女の良子(松尾)は奉公に・・・良子の印象は薄いが、松尾嘉代の若さに驚いた・・・
隣家の西脇(浜村純)も保健婦の堀かな子(吉行和子)にレントゲンを撮れと言われ続けていたが、そのうち幼い娘が赤痢となった。トイレと台所の水道が同じという劣悪な環境の集合平屋住宅。単なる貧乏と違う、在日朝鮮人という問題もあったのだ。もちろん生活保護も受けられないのだ。
不況のため会社の3分の2の従業員のクビ切り。怪我をした辺見も退職し北海道の炭鉱へと引っ越していった。おかげで、長兄は弟妹を連れ、預かり先を探すが、見つかった家はとんでもない田舎の一軒家。すぐに2人は逃げ出した。夏休み中、住み込みで一日100円のアルバイトをするにあんちゃんの高一(沖村)。まだ小学生だぞ。喜一は長崎のパチンコ屋の住み込み。かな子先生も結婚するため東京に行っちゃったので、にあんちゃんは東京で働くことを決意。自転車屋で頼み込むと、警官がやってきた・・・
赤貧で辛い生活を強いられてはいるが、持ち前の明るさを持っているにあんちゃん。どん底であるのにとても前向きな生き方は、ラストでもほんわかさせられる。
ファイトのある子どもをテーマに撮りたかった
映画「にあんちゃん」(今村昌平監督)から。
「この映画は・・4人の兄弟の記録である」というナレーション。
冒頭で「えっ、どんな映画なのか説明しちゃうの?」と戸惑ったが、
却って、最近にはない展開で、新鮮だった。
作品中、台詞よりも、兄ちゃん(長男)役の「長門裕之」さんが、
サザンの桑田にそっくりで、そればかり気になってしまった。(笑)
今回の主役は、四人兄弟(2男2女)の3番目。
どうして、この子が主役なんだろう、と疑問に思ったが、
ある番組で、今村監督のコメントを耳にして、納得してしまった。
「ファイトのある子どもをテーマに撮りたかった」
今の子どもたちと比べれば、十分、逞しい昔の子どもなのだが、
その中でも特に、父母のいない4人兄弟の次男が、
貧しくてもファイトをもって生きる姿が、描かれている。
時には、海や川に飛び込み、その水さえ飲んでしまうほどの丈夫さ、
大人の嫌らしいイヤミを、さらっと受け流す処世術、
「東京に行ってだめなら、それまでじゃ」という割り切り方。
どれをとっても「生きる力」を感じさせるシーンだったと思う。
最後に「にあんちゃん」(たぶん二番目の兄さんの意味)が決意する。
「とうちゃんも、にいちゃんも、貧乏のためにできなかったことを、
僕がやってみせる。今に、きっと!!」と。
そう言えば、最近「ファィとのある子ども」って少なくなったなぁ。
今村監督の想い、私には充分伝わりましたよ、はい。
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