浪花の恋の物語

劇場公開日:1959年9月13日

解説

近松門左衛門の『冥途の飛脚』『恋飛脚大和往来』から、「美男城」の成澤昌茂が脚色し、「大菩薩峠 完結篇(1959)」の内由吐夢が監督した悲恋物語。「独眼竜政宗」の坪井誠が撮影した。

1959年製作/105分/日本
原題または英題:Distressed/Their Own World
配給:東映
劇場公開日:1959年9月13日

あらすじ

忠兵衛は浪華飛脚問屋・亀屋の養子だった。同業丹波屋八右衛門に無理やり新町廓に連れこまれた。その相方が梅川だった。一度は帰ろうとするが、彼女の頼みで、そのまま泊ってしまう。客と寝ずに帰せば遊女は折檻されるのだ。--翌朝、八右衛門が口裏を合わせ、無事に家へ入れたが、たちまち、その夜、廓へ足が向いていた。それからはチョクチョク遊びが続いた。梅川の情の深さが彼を捉えた。「わてらにとっては金が仇の世の中……」竹本座座付作者近松門左衛門は隣室で、その梅川のつぶやきを聞いた。義母の妙閑は彼の金遣いの荒らさに気づいた。大阪を離して考えさせよう。為替の差額を取りに江戸へ発たせた。その前夜、忠兵衛は梅川を待つ間、彼女の母あての手紙で、その孝行を知る。彼は金を置き、梅川に会わずに帰った。櫛が彼の江戸土産として届いた。縁を切るとのなぞ言葉か。梅川は泣きくずれた。近松がそれを見ていた。藤兵衛という小豆島の醤油の大尽が北陸から帰ってきたら、梅川を身請することになっていた。旅姿のままつい寄った忠兵衛は、それを聞かされた。持っていた八右衛門に届ける五十両を、身代金二百五十両の内金として入れ、いつづけを始めた。八右衛門に見つかったが、頼みこんで金は借り、家へ帰った。若い許婚・おとくへの土産は花かんざしだった。武家の為替三百両を届ける用事が、忠兵衛に命じられた。彼は金を懐ろに廓へ行ってしまう。藤兵衛が帰阪してい、梅川の身請の祝宴を挙げようとしていた。忠兵衛の内金はつっかえされた。後の二百両を入れたら、待ってもええ。梅川の主人は彼を馬鹿にしていた。八右衛門が梅川の部屋で例の五十両の一件を笑い話にしていた。忠兵衛は口惜しく、思わず懐ろの小判を握った。封印がきれ、こぼれた。その金も彼は八右衛門や梅川の主人の前に置き、梅川を連れて去った。--亀屋に捕方がなだれこみ、忠兵衛の代りに妙閑が引っ立てられた。武家のお蔵金の封印切りは獄門である。瓦版が大阪の街を走った。三輪の里で、忠兵衛は梅川に封印切りを打ち明けた。梅川はそれを知っていながら、ついてきたのだ。二人はどこまでも一緒にいようと誓い合う。新口村の入口で、二人は捕った。実の親に会いに行くところだった。梅川には二度の勤めが待っていた。--近松はこの話を三幕の世話狂言に仕立てた。新口村の場では、梅川・忠兵衛と親孫右衛門を会わせ、つらい別れと親子の情を見事に描いた。この芝居は民衆に拍手で迎えられた。作者自身も涙していた。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

未評価 浪花の恋の物語

2025年11月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

神保町シアターで内田吐夢 監督『浪花の恋の物語』鑑賞。これってキャバ嬢を本気で好きになっちゃって、何度も通ううちに店の売掛金が払えなくなって、顧客の金を横領したってみたいな事でしょ。近松がいた頃と変わらんなあ。売り買いされる遊女の悲しみが、有馬稲子嬢の名演から伝わってきたっス。#11

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はにわさん in 2025

5.0 ただ流されていく

2025年10月19日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

1959年。内由吐夢監督。近松門左衛門「冥途の飛脚」を映画化。飛脚問屋の養子の主人公はまじめ一筋。店の一人娘と結婚して後を継ぐことが決まっている。しかし、いやいや連れていかれた遊郭で出会った梅川にやさしくされ、一度は思い切って別れたものの、御大尽に見受けされる話を聞いて競争心が芽生え、超えてはならぬ一線を越えて店の金に手をつけてしまう、という悲劇。
片岡千恵蔵が近松門左衛門として登場し、梅川がいる遊郭に逗留して悲劇的な物語を実際に見聞きしている。そこから浄瑠璃の脚本を構想するなかで結末をアレンジする、というメタ構造になっている。事実のなかに時代や人間の本質を見抜いて物語化する、という近松の目のアップで終幕となる。
主人公も遊女も相手のどこに惚れたという心理的な説明がほとんどなく、周囲の思惑と金の行方だけで事態があれよあれよと進行していき、気づいたら追い詰められている。しいて言えば「無意識的な欲望」はあるものの(ライバルがいると奪いたくなる、嫌なものは嫌、など)、基本的にはただ流されていく二人。これが切ない。
近松の妄想として、萬家と有馬の道行的な踊りがインサートされる。かたや萬家は歌舞伎役者、かたや有馬は日本舞踊を教えることができるだけあって、この踊りと衣装がとても美しい。この映画を機に萬家錦之介と有馬稲子は結婚したとwikiにありました。

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文字読み

5.0 ドリアン・グレイの肖像

2024年3月8日
Androidアプリから投稿

大スター同士の結婚第一号でしたね。芸術が人生を模倣するのではなく、人生が芸術を模倣するってやつですか。
役を血肉化させる錦ちゃんはまさに和製マーロン・ブランド。マシュマロのような肌に触れてしまえそうな有馬さんは和製マリリンモンロー。
虚構と現実の境が見えなくなっても仕方ない。こんなはまり役に出会えた役者は幸せでしょう。スター同士の恋愛というタブーを犯してまで惹かれ合う2人。
忠兵衛と梅川のどんなに汚されても汚されない純粋さ、それはまさに錦ちゃんとネコちゃん、稀有な役者の資質そのもの。

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こうた