どぶのレビュー・感想・評価
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今では描けない世界
最近は1940年代50年代の映画を重点に見ています。溝口、成瀬、小津、新藤ら。そのあとで、改めて黒澤、野村芳太郎、今村昌平を見る予定です。映画論、監督論も読んでいます。
さて本作品ですが、新藤の作品としては普通ではないでしょうか。映画史上の意義としては「裸の島」に値打ちがあると感じました。狭い耕地を家族で耕しギリギリ生きていくところに農民の原像があるように思いました。もっと広げて生活者の原像と言っていいかもしれませんね。
「原爆の子」もいいですが、題材としては難しいですね。原爆そのものをどう見せるかという問題があって、過度にグロテスクな場面を入れることは控え、身近な人々の運命に視点を移します。
さて「どぶ」にもどりましょう。何と言っても乙羽信子の演技に圧倒されます。芝居に賭ける思いを感じます。宝塚から大映にスカウトされたが新藤と仕事がしたくて永田雅一に直談判したのですが、その熱意に感服します。「縮図」に続きこの「どぶ」の好演も特筆されるべきでしょう。脇役の人たちの顔ぶれを見ると、贅沢な映画だと感じます。大滝秀治などほんのちょい役です。どぶ川の情景、貧しき人々、今なら差別用語になる言葉・・・、印象に残るシーンが多くあります。これをあえて現代に置き換えるとすればどんな映画ができるでしょうか。厳しいですね。ロケ地がない、俳優がない、予算がない、そして最大の問題は見るお客がいないことです。今の監督さんは大変ですね。映画産業の衰退で、時間をかけて実力ある先輩から技術を継承することができませんから不利です。しかし現在の根本問題を映画で表現できるのはやはり若い世代ですから、制約を打ち破って見る側の背筋をしゃきっと伸ばしてくれる作品を作ってください。女性の監督に期待ですね。
戦後の川崎駅前、鶴見川沿い周辺に生きる人々を描く衝撃作
以前から、気になっていた作品。
2011年8月、スカパーの〔日本映画専門チャンネル〕新藤兼人監督特集にて観ることが出来ました。
横浜鶴見の街で、昭和40年代に生まれ育った私にとって、馴染み深いはずの川崎駅前や鶴見川沿いの風景が、まるで違っていたことに驚いたというのが正直な感想です。
私が生まれるほんの僅か10年前の川崎駅前や、鶴見川沿いの風景には、衝撃を受けました。
戦後日本の復興と急速な再開発には、ただただ驚くばかりです。
私より上の世代の人達が語る川崎駅前や鶴見川沿い周辺の街並みや雰囲気が、やっと理解出来たというのが、正直な感想です。
現在の川崎駅前や鶴見川沿いには、もはや面影すら残っていませんが、JR鶴見線国道駅には、当時と何ら変わらないと思われる川崎、鶴見の街独特の雰囲気が残っているので、この映画を観た人には、是非一度訪れてみることをおすすめしたいスポットです。(笑)
川崎駅、鶴見川沿い周辺に縁があったり、現在住んでいるという人達、全ての老若男女必見の映画と言えるでしょう。
さすが、【原爆の子】や【第5福竜丸】【裸の十九歳】を監督した新藤兼人監督ならではの名作ですね!
最初から中盤までは、笑えるけれども、最後はどうしても泣けてしまう映画です。(涙)
この映画を観て、私が子供の頃に鶴見川をみんなが【どぶ川】と呼んでいた本当の意味が、この歳になってやっと分かりかけた気がします。
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