「肥大したプライドが本人をおしつぶすのだ それが美意識であるのかは見方しだいだ」どついたるねん あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
肥大したプライドが本人をおしつぶすのだ それが美意識であるのかは見方しだいだ
阪本順治監督は名作竜二で助監督を務めた人
本作もまた不純物がない純度の高い映画だった
誰しも人には限界がある
才能の限界、本人の慢心、環境の未整備、運、様々なことで将来の栄光を本人も周囲も確信していたにも関わらず、成功への階段を踏み外ししてしまうことがある
ほとんどの人間は階段を踏み外すものなのだ
ごく一握りの人間だけが階段を登り詰めることができる
それを踏み外したとき、認めることができるのか
努力で再起できる場合もあればそうでないこともある
決定的な破滅にまで至らないと認めることができない人間もいる
主人公がそれだ
肥大したプライドが本人をおしつぶすのだ
それが美意識であるのかは見方しだいだ
ポスターはそれだ
まるで戦前の日本と同じナイーブさなのだ
一方、原田芳雄が演じる元チャンピオンの左島コーチのように敗北を認めて、その中で自分を活かせる新しい道を探せる人物もいるのだ
本作は時代を超えた普遍性を持っていると言えるだろう
本作公開は1989年、ちょうど団塊の世代が40歳となった時期であった
そのことが本作のヒットに大きく影響したのではないだろうか
彼らは最早若くなくなった
いつまでも現場の花形ではいられなくなっていたのだ
一握りの上級管理職になれるのか、そのまま現場に埋もれてしまうのかの岐路に立たされていた時期であったのだ
だからこそ本作は彼らの琴線に触れ大きく共振したのではないだろうか
彼らは主人公のように敗北を認めずあがいてあがいてあがき抜いたのだ
主人公は彼らの姿そのものだ
本作から数年後に襲来したバブル崩壊
彼らはそれからも敗北を認めず居座り続けている
老人になった今でさえも
主人公の姿は団塊の世代のあがきと二重写しに見えて仕方なかった
本作の登場人物達と同様に彼らに随分と振り回され迷惑を掛けられた人はさぞ多いことだろう
ラストシーン、タオルを投げ入れられたにも関わらず、若手の顔面にパンチを炸裂させる
それは団塊ジュニア世代を失われた世代と呼ばれる悲惨な境遇に突き落とした彼らの所業そのものなのだ